消えない違和感
ミレーヌとピピンに整えられ、身支度を全て終えた私は昨日よりもずっと白く、そしてどこか「人間離れ」した美しさを纏って部屋を出た。
丁度、アルカード様が私をエスコートしにき来てくれていた。
廊下に並ぶ銀色の鎧たちが、私が通り過ぎるたびにガシャガシャと音を立てて深く頭を下げる。
「ふふ、おはよう。今日も良いお天気ね」
中身のない鎧たちに笑顔で挨拶を返すと、隣を歩くアルカード様が、満足そうに私の腰を引き寄せた。
「セシリア、今朝の君は一段と輝いているよ。その白さは、まるで磨き上げられた大理石のようだ。……私のコレクションの中でも、最高傑作になりつつあるね」
「まあ、アルカード様ったら。私を石像みたいにおっしゃるのね」
冗談めかして笑い合いながら辿り着いた食堂には、二人きりで座るにはあまりに長すぎる、重厚な黒檀のテーブルが置かれていた。
その隅に、当然のような顔をして控えていたのは――。
「……リアム?」
昨夜、窓から飛び降りたはずの彼が、何事もなかったかのように燕尾服の襟を正して立っていた。姿は見えないけれど、その立ち姿からは不思議と「おはようございます」という無言の挨拶が伝わってくる。
「さあ、座っておくれ。君のために最高のシェフ……マダム・ヴェノマに腕を振るわせたんだ」
アルカード様に椅子を引かれ、私は席に着いた。
すると、ピピンがトレイに乗せて運んできたのは、銀の蓋がついた一皿。
「セシリア様! お待たせしましたぁ! 特注の『震えるお肉』ですよぉ!」
ピピンが勢いよく蓋を開けると、そこには、淡い桃色をした、手のひらサイズの可愛いスライムが乗っていた。
そのスライムは、皿の上でプルプル、ビクビクと小刻みに震えながら、潤んだ瞳(のような光)で私をじっと見つめている。
「……え、これ、食べるの……?」
私がフォークを握ったまま、あまりの可愛さと「生命感」に躊躇していると、私の背後で給仕をしていたリアムが、わずかに空気を揺らした。
「……セシリア様、それは――」
リアムが何かを言いかけた瞬間、足元でピピンがケラケラと笑い転げた。
「あはははっ! セシリア、冗談ですよぅ! それ、お肉じゃなくて公爵様が魔法で作った特製のゼリーです! 『震えるお肉』なんて、そんな野蛮なもの出しませんよぅ!」
「まあ、冗談だったのね。驚かせないでちょうだい、ピピン」
私はホッと胸を撫で下ろし、プルプルと震えるスライム。の側に置かれた本物のゼリーをスプーンを入れた。
口の中で溶けるような甘さ。けれど、飲み込んだ瞬間、スライムが「助けて」という微かな声を響かせたような気がしたけれど――指輪の魔力に酔い痴れている私は、それをただの「美味しい余韻」だと決めつけた。
「美味しいわ、アルカード様。こんなに刺激的な朝食、初めてですわ」
「そうかい。君が喜んでくれるなら、次はもっと『活きのいい』ものを用意させよう」
アルカード様は優雅にワインを啜りながら、私の食事を慈しむように見守っている。
ふと横を見ると、リアムが微動だにせず、けれどどこか「悔恨」に震えているような気配を感じた。
「リアム、あなたも元気そうでよかったわ。昨夜は少し、心配したのよ?」
私が声をかけると、アルカード様のグラスを持つ手が、一瞬だけ止まった。




