お喋りなメイドたち
「ここが、私のための部屋……? まあ、なんて贅沢なのかしら」
感激に震える私を、アルカード様はとろけるような眼差しで見つめ、私のおでこに優しく、紳士的なキスを落とした。
「今日はもう疲れただろう、セシリア。ゆっくりと羽を休めておくれ。君の望むものはすべて、そこに用意してあるから」
夢心地のまま彼を見送り、私は備え付けの浴場へと向かった。
そこは浴場というよりは、もはや温水の湖。水面には色とりどりの、甘い香りを放つ花々が隙間なく浮かび、湯気さえもバラの香りがする。
「……あら?」
お風呂の世話をしてくれる「メイド」たちは、これまた個性的だった。
ピンク色のふかふかなクマのぬいぐるみ。
頭に大きなリボンをつけた、喋る自立式の姿見。
そして、フリルのエプロンを纏った、歩く大きな植物。
指輪の魔力に当てられている私は、その異様な光景を見ても「まあ、なんて独創的で可愛らしいのかしら!」としか思わなかった。
「なんて素敵なの……。このお花、全部アルカード様が選んでくださったのかしら」
私が恍惚とした表情で湯船に浸かると、三人の「メイド」たちがそれぞれの反応を見せた。
「キャーーッ! 見て見て! あのうっとりしたお顔! 今回もなんて甘くてとろけそうな恋なのかしらぁ!」
一番小柄なぬいぐるみメイドが、短い手で自らの頬を挟み、短い足をパタパタと激しくさせて悶絶している。脳内まで常にピンク色の綿で詰まっているような子だった。
「そうねえ、とっても幸せそう。……でも、その幸せの『賞味期限』が、あそこの砂時計より短いことに気づいていないのは、もっと幸せなことなのかもしれないわね」
隣でバスタオルを広げて待機している姿見のメイドが、鈴の鳴るような澄んだ声で言った。私と同年代くらいの落ち着いた口調だけれど、鏡面に映る私の姿を眺めるその言葉の節々には、鋭利なガラスの破片のようなトゲが混ざっている。
「ふん。まったく誰も彼も、アルカードの甘い言葉に当てられて、脳みそまでバラ色の入浴剤に溶かされたのかしら」
背後から、ざりざりと岩を削るような声が響いた。メイド長だろうか?
彼女は情け容赦ない毒を吐き出している。
「いい? お嬢さん。あんたが今嵌めてるその指輪、前の子の時は『胃袋の中から』回収された代物よ。公爵様が紳士に見えるのは、獲物を飲み込む前の咀嚼を丁寧にしてるだけなんだから」
「まあ、アルカード様の愛の深さを、そんな風に例えるなんて。……私を飲み込みたいほど愛してくださっているのね?」
私が頬を染めて答えると、メイド長? のは大きな葉を「バシッ」と自らの額(?)に当てた。
「……だめだわ。これ、手遅れなタイプよ。前回の子より重症だわ」
「そうね、ヴェノマさん。無知って本当に無敵。鏡に映る自分の顔が、少しずつ『人間』じゃなくなってきてるのも、きっとこの子には『美しく着飾っている』ように見えてるのよ」
姿見のメイドが、トゲのある優しさで私を覗き込む。
「だってだって! ヴェノマ、ミレーヌ! セシリア様はアルカード様に選ばれた運命の方なんですもの! 窓から飛び降りたリアムさんだって、きっと今頃、下で綺麗な花びらに変えられて幸せに舞っているはずですわ!」
ぬいぐるみメイドがピョンピョン跳ねながら無邪気に残酷なことを口にする。
私は、彼女たちの会話の中に混ざる「不穏な単語」をすべて愛のスパイスとして解釈し、花の香りに包まれてまどろんでいた。
「ふふ、みんなとっても仲良しなのね。明日から、このお城で過ごすのがもっと楽しみになったわ……」
「……この子、あと三日持てばいい方ね」
「賭ける? 私は明日の朝食で、心が折れる方に一票だわ」
私は指輪の輝きをうっとりと眺めながら、彼女たちの「不吉な忠告」を、すべて「祝福のさえずり」として脳内変換して聞き流していた。
「見て、あの顔。完全に『キマって』るわ。もうピピンぐらいの末期ね。今のうちに、次の子のための入浴剤、発注しとく?」
シュールな会話が飛び交う中、私は花の香りに包まれ、この上ない幸福感に浸っていた。




