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永遠の約束

「セシリア様、最後にこれだけは……。まだ、あなたが『あなた』であるうちに、この城を出てください。ここは、愛が墓標に変わる場所なのです」


リアムの切迫した声。けれど、次の瞬間、彼は燕尾服の裾を翻し、迷いなく夜の闇が広がる窓から身を投げた。

「リアム――!」

私は叫び、窓辺に駆け寄った。けれど、そこにはただ冷たい月光が降り注ぐだけで、中身のない服も、彼の気配も、霧のように消え去っていた。


茫然と立ち尽くす私の背後で、重厚な扉が静かに開く。


「お待たせしたね、セシリア。……どうかしたかな? 窓を開けて」


帰ってきたアルカード様のその手には、銀の細工が施された、重厚で荘厳な小箱が握られていた。


「あ……。ええ、その……。あまりに星空が綺麗だったので、少し眺めていたのですわ」


私は咄嗟に嘘をついた。リアムのことを話してはいけない。本能がそう告げていた。ふと、ソファーに目を向けると、ついさっきまで丸まっていたはずのあの大きな黒猫も、いつの間にか煙のように消え去っていた。


部屋の中には、私とアルカード様、二人きり。


「そうか。だが、今夜からは星よりも輝くものを、君に身につけてほしい」


アルカード様は私の前に立ち、優雅な所作で跪いた。そして、ゆっくりと小箱の蓋を開く。

中から現れたのは、見たこともないほど巨大な、漆黒のダイヤモンドが嵌められた指輪。その輝きは美しく、けれど見つめていると吸い込まれそうなほどに禍々しく、不気味な魔力の脈動を放っていた。


「まあ……なんて、素敵なの」


私は、その指輪から目が離せなかった。

不穏な予感さえ、この圧倒的な美しさの前では「愛の重み」に変換されてしまう。


「君のその指に、私の永遠を刻ませてほしい。……もう二度と、誰にも君を触れさせないために」


アルカード様は、至極丁寧に、そして宝物を扱うような手つきで私の左手を取り、指輪を滑り込ませた。

指輪が根元まで届いた瞬間、指先にチクリとした熱い痛みが走り、一滴の血が漆黒の石に吸い込まれていったような気がした。


「……あ」


「これで、君は名実ともに私のものだ、セシリア」


指輪を見つめる私の瞳に、怪しい光が宿る。

自分を縛り付けていた倫理や理性が、その指輪の重みで完全に粉砕されていく。

指輪の嵌まった指をじっと見つめながら、私は恍惚とした表情で、自らの崩壊を祝福していた。


「ええ……。嬉しいわ、アルカード様。私、もうどこへも行きませんわ」


リアムが告げてくれた警告など、もう今の私の心には届かない。

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