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保育園での思い出

作者: そのいち
掲載日:2026/01/31

 5歳の男の子、癇癪がとてもひどくて、他害が激しかった。家庭でも保育園でももてあまされていた子。

 会話はできるけど、少し発達は遅い。でもまわりの子についていけていない自分に気付くことができてしまう、難しい状態だった。

 その日も、その子はクラスでやることにうまく参加できなくて、怒って、保育園の中を走りまわってた。

 彼は職員室に駆け込んだ。追いかけて入ってきた私に対して、困らせるために掲示物を壊そうとしたり、絶対にさわってはいけないってわかってる書類を渡せと言ったりして、私を必死に試そうとした。

 私は、5歳の彼がまだまだ抱っこが好きだって知ってた。彼がスキンシップを好んでくれることは、そのときの私にとって武器だった。

「じゃあちょっと先生たちの当番表、ちょっと外しちゃおうか」

 そう言って、抱っこするよ、って手を広げた。掲示板は大人用の高い位置にあったからね。

 抱っこができたから、けがの心配がまず減った。

「どれを壊しちゃう? これは〇〇先生、これは△△先生って書いてあるよ」

 私は、最悪、本当に壊しても今はしかたない、って思ってた。とりあえず彼が「悪いことをしたい」って思っているなら、この程度のことならやらせていいと判断してた。彼の癇癪、他害の程度を考えたときに。

 そう言われた彼は、ためらいを見せた。〇〇先生のマグネットを壊すことに罪悪感を覚えたようだった。

 彼は結局、私の名前のマグネットを確認してから、おそるおそる、マグネットの場所を少しだけ変えた。

 そのあと、彼を膝に乗せながら、彼がそのときハマっていた英語の話をした。英語で数を一緒に数えて、彼がつまったら、クイズにして、ヒントを出した。彼は自分がわからないことにも怒るけど、そのまま教えたりしたら、それはそれで怒っちゃうからね。

 そのとき、彼のクラスの副担任の先生が、様子を見に来た。私は彼女に笑って会釈だけして、なにも言わなかった。彼女は私に一礼して、すぐ戻っていった。お任せします、って意味で、彼と私の今の様子を担任の先生に報告するんだと思う。私にとっては最高のタイミングだった。

 副担任の先生が来たことに私は触れなかったけど、彼はしっかりと見てた。私が彼を下ろすと、彼は少し黙ってた。

「戻るー?」

 聞いたら、彼は返事もうなずきもしなかったけど、自分の教室に向かって歩き出した。

「そういえば、なんであんなに怒ってたの?」

 これは聞かないほうがいいかなとも思ったけど、彼の様子が落ち着いていたから、聞くだけ聞いておいた。答えなくていいけど、ただ彼が振り返ることができたらいいと思ってた。彼はやっぱり答えなくて、でも私と手をつないで、教室に戻った。


 このときから、彼は私に心を開いてくれるようになった。

 一番好きな先生、ってメッセージに書いてくれた。

 私の大切な思い出。

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― 新着の感想 ―
「ついていけていない自分に気付けることができてしまう」の一文が印象的でした。わかるのにできないって、本当にもどかしくてくやしい。そこに気づいてくれて、単に面倒だから言いなりになるという訳ではなく、一人…
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