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7.穢れた儀式

ロックイーターを解体し、畑の整地がある程度進んだ数日後。 俺は次のステップ、「土作り」の総仕上げに取り掛かっていた。


俺の目の前には、異様な光景が広がっている。 刈り取った雑草の山。 ロックイーターの砕いた骨。 解体した際に出た内臓や血。 そして、近隣の森でスライムを狩って集めた粘液。


極めつけは、俺が昨日一日かけて、セリアに白い目で見られながら集めた「排泄物」の山だ。


「……アレク様。本気ですか?」


鼻と口をハンカチで覆ったセリアが、涙目で抗議してくる。


「それを……その汚物や死骸を、畑に撒くなんて。正気とは思えません。土は清浄であってこそ、神の恵み(作物)が育つのですよ? これは大地への冒涜です!」


この世界の「清浄信仰ピュアリズム」だ。 不衛生による疫病を恐れるあまり、行き過ぎた潔癖思想が宗教化している。 だが、その信仰こそが、この世界を飢えさせている元凶だ。


「セリア、よく聞け。これは汚物じゃない。『ごはん』だ」


「ごはん……? オエッ……」


「土の中の微生物たちにとっての、最高のご馳走なんだよ。魔法でマナを吸い上げるだけじゃ、土は痩せる一方だ。人間だって、働いたら飯を食うだろ? 土にも飯を返してやらなきゃいけない。それが循環サイクルだ」


俺はスコップを手に取り、それらの材料を豪快に混ぜ合わせ始めた。


「炭素率(C/N比)の調整が肝だ。雑草(炭素)と排泄物(窒素)をバランスよく混ぜ、そこに米ぬか……はないから、代わりの麦殻を投入。さらにスライムの粘液が良い仕事をする。あれは天然の発酵促進剤なんだ」


ザッ、ザッ、ザッ。 俺は無心で混ぜ続ける。 最初は鼻をつく悪臭が漂っていた。セリアが顔をしかめて後ずさる。


だが、俺は止まらない。 水分量を調整し、空気を含ませるように切り返す。 微生物よ、目覚めろ。分解しろ。命を繋げ。 俺の魔力そんなものはないがではなく、知識と愛を注ぎ込む。


数十分後。 不思議な現象が起きた。


「……あれ? 臭くない?」


セリアが恐る恐るハンカチを外した。 先ほどまでの腐敗臭が消え、代わりに森の中のような、少し甘く、香ばしい土の匂いが漂い始めていたのだ。


そして、積み上げた堆肥の山から、白い湯気が立ち上っている。


「煙!? 燃えているのですか!?」


「いいや、これは『発酵熱』だ。微生物たちが活発に働いて、有機物を分解している証拠だ。60度以上あるぞ。この熱で悪い病原菌や寄生虫の卵は死滅する。つまり、もう汚物じゃない。完全に浄化された『完熟堆肥』への第一歩だ」


俺は湯気を上げる堆肥の山に手をかざし、満足げに頷いた。 成功だ。この世界の微生物も、地球と同じ働きをしてくれる。


「魔法も使わずに、熱を……浄化を……?」


セリアは呆然と湯気を見つめている。 彼女の常識がガラガラと崩れ落ちている音が聞こえるようだ。


「これを土に混ぜ込めば、フカフカの団粒構造ができる。保水性も排水性も最強の土だ。そこに種を蒔けば……今の時期なら二十日大根ラディッシュやカブが、爆発的に育つはずだ」


俺は泥だらけの手をパンと叩き、セリアに向かってニカっと笑った。


「セリア、お前にも手伝ってもらうぞ。この山をあと3つ作る」


「……拒否権は?」


「ない。美味しい野菜が食べたいなら、手を動かせ」


「うう……お母様、ごめんなさい。私は今日、穢れた女になります……」


セリアは悲壮な覚悟で剣を置き、俺が渡した予備のスコップ(鉄製)を握りしめた。


こうして、辺境の荒野に、二人の人間が泥にまみれて土を混ぜる奇妙な光景が生まれた。 王都の貴族が見れば卒倒するだろう。 だが、この「穢れた儀式」こそが、やがて世界を救う第一歩となるのだった。


作業を終えた夕暮れ時。 俺たちは泥だらけの顔を見合わせ、腹の虫を盛大に鳴らした。


「……お腹が空きましたね、アレク様」


「ああ。ロックイーターの肉でも焼くか」


「泥臭くないですか?」


「俺の堆肥と同じだ。調理次第やりようで、最高のご馳走になるさ」


俺たちの開拓生活は、まだ始まったばかりだ。

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