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6.爆誕、ミスリル・ホー

アイアンサイドから戻った俺たちは、再び死の荒野「ガレ」の中心に立っていた。 数日前と違うのは、俺の肩に、太陽の光を浴びて青白く輝く、凶悪な形状の農具が担がれていることだ。


「万能鍬・開拓丸かいたくまる……。何度見ても、農具には見えませんね」


セリアが呆れたように呟く。


「刃渡りが大きすぎて、ハルバードか処刑人のバルディッシュにしか見えません。本当にそれで畑を耕すつもりですか?」


「当たり前だ。これは平和の象徴だぞ」


俺は愛おしそうに、ドラゴンの骨で作られた柄を撫でた。 骨材特有のしなりと、手への吸い付き具合が素晴らしい。重心のバランスも完璧だ。ガンテツの親父、いい仕事をしやがる。


「よし、試運転といこうか」


俺は足元の岩盤――以前、鉄のクワを無残にへし折った憎き「魔断層」を見下ろした。 カチカチに乾いた白い表面は、今日も俺を拒絶するように沈黙している。


俺は足を肩幅に開き、腰を落とした。 丹田に力を込め、開拓丸を高く振り上げる。 魔力はない。だが、全身のバネと、道具の重みを一点に集中させる技術はある。


「ふんっ!!」


裂帛れっぱくの気合いと共に、ミスリルの刃が振り下ろされた。


ズドンッ!!


金属音ではない。 まるで巨大なハンマーで大地を叩いたような、腹の底に響く重低音が轟いた。 衝撃波で砂埃が舞い上がり、セリアが「きゃっ」と顔を覆う。


砂煙が晴れたあと。 そこには、信じられない光景があった。


鋼鉄よりも硬いはずの岩盤に、深さ50センチほどの綺麗な「裂け目」が刻まれていたのだ。 刃こぼれ一つない開拓丸が、深々と地面に突き刺さっている。


「……嘘でしょう? 魔法障壁すら弾く魔断層を、人力で切り裂いた?」


セリアが目を丸くして立ち尽くしている。


「見たかセリア! これがガンテツ流、衝撃分散構造の威力だ!」


俺は興奮気味に叫び、テコの原理を利用して柄をグイッと押し込んだ。 ボコッ、と音を立てて岩盤がめくれ上がり、その下から「黒い土」が顔を出した。


その瞬間、むせ返るような湿った土の匂いが漂った。


「あぁ……これだ……!」


俺はクワを放り出し、泥にまみれるのも構わず、その黒土を両手ですくい上げた。 しっとりと湿り気を帯び、手の中でほろほろと崩れる。 数百年もの間、岩盤に守られ、誰にも魔力を吸い取られなかった処女地バージン・ソイル


「団粒構造も生きている。有機物もたっぷりだ。……なんて美しいんだ」


俺は感動のあまり、その土に頬ずりをした。


「ちょ、アレク様!? 顔が泥だらけですよ!」


「汚くない、これはダイヤモンドより価値がある『生命の塊』だ! ははは、勝った! これなら何でも育つぞ!」


俺が狂喜乱舞していると、ズシン、ズシンという地響きが近づいてきた。 土の匂いに釣られたのだろう。岩場から、巨大な影が現れた。


全長3メートルはある巨大な猪。全身が岩のような甲殻で覆われた魔物、ロックイーターだ。 鋭い牙からはよだれが垂れている。


「グルルゥ……」


「ッ! 魔物!? アレク様、下がってください!」


セリアが瞬時に剣を抜き、俺の前に割って入る。 流石は騎士だ。だが、相手が悪い。 ロックイーターの甲殻は、生半可な剣撃では傷一つ付かない。


「くっ、硬い……! 私の剣が通じない!?」


セリアの一撃が弾かれ、彼女の体勢が崩れる。 ロックイーターが好機とばかりに突進の構えを見せた。その鼻先が向いているのは、セリアではなく――俺が掘り起こしたばかりの「黒土」だった。


「ブモォォォッ!(美味そうな土の匂いだ!)」


魔物は希少なミネラルを含んだ土を好む。 奴は、俺の愛する土を喰らうつもりだ。


ブチッ。


俺の中で、何かが切れる音がした。


「おい」


俺はセリアの肩を掴んで後ろに下がらせると、突き刺さっていた開拓丸を引き抜いた。


「アレク様!? 何を……逃げてください!」


「逃げる? 誰がだ?」


俺はゆらりと前に出た。 目は笑っていなかったと思う。


「俺がようやく掘り起こした、世界最高の畑だぞ。そこを泥足で踏み荒らそうなんざ……」


ロックイーターが猛烈な勢いで突っ込んでくる。 岩をも砕く突進。まともに食らえば人間など肉塊だ。


だが、俺は逃げない。 相手の動きを冷静に見極め、タイミングを計る。 突進の瞬間、俺は一歩踏み込み、クワを横薙ぎに一閃させた。


「害獣は、消毒だぁぁぁッ!!」


ガゴォォォォンッ!!


ミスリルの刃が、ロックイーターの鼻先から頭蓋ごと、硬い甲殻を粉砕した。 まるでスイカ割りだ。 巨体が宙を舞い、ドサリと地面に転がる。ピクリとも動かない。即死だ。


あたりに静寂が戻る。


「ふゥ……。危ないところだった。土が汚染される前でよかった」


俺はクワについた血糊を払い、何事もなかったかのように振り返った。 そこには、腰を抜かして座り込むセリアがいた。


「……アレク様」


「ん? 怪我はないか?」


「あの魔物は、騎士団でも小隊規模で討伐するBランク魔獣です。それを一撃で……しかも農具で?」


「農具じゃない。開拓丸だ。それに、奴の甲殻は岩盤より柔らかかったからな」


俺は倒れたロックイーターの死骸を見下ろし、ニヤリと笑った。


「それに、いい獲物だ。肉は食えるし、骨は砕いて肥料(骨粉)にできる。血抜きをして解体しよう。セリア、手伝ってくれ」


「……貴方という人は、本当に……」


セリアは深くため息をつき、諦めたように立ち上がった。 その目には、畏怖と、呆れと、そしてごく僅かな信頼の色が宿り始めていた。

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