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59.そして、いただきます

それから、数年の月日が流れた。


ガレ公国は今や、世界地図の中心にあった。 軍事力でも経済力でもなく、「食」の中心地として。 街には人間、エルフ、ドワーフ、獣人、そして魔族たちが溢れ、屋台から漂うスパイスや出汁の香りに笑顔を咲かせている。


「公王陛下ー! どこですかー! また執務をサボってー!」


領主館(今は立派な王城になっている)の庭で、銀髪の美しい女性――公王妃となったセリアが叫んでいる。


「ここだここだ。大声出すなよ、セリア」


俺は王冠ではなく麦わら帽子を被り、泥だらけの作業着姿で、トマト畑から顔を出した。 手には、真っ赤に熟した完熟トマト。


「もう……。他国の使節団が来ているのですよ? 着替えてください」


「悪い悪い。でも見てくれ、今年のトマトは最高だぞ。甘みが違う」


俺がトマトを差し出すと、セリアは呆れつつも、パクリと齧った。


「……んっ。甘い。本当に、貴方の作る野菜には敵いませんね」 「だろ? 俺は公王である前に、世界一の農家だからな」


俺たちは笑い合った。 その時、屋敷の方から賑やかな声が聞こえてきた。


「おーいアレク! 早く来い! 肉が焼けるぞ!」 ギガン将軍がビールジョッキを片手に叫んでいる。


「私のお肉がないわよ! 早く切り分けて!」 エリル女王(昇格した)が皿を叩いている。


「不潔ですが……美味しいです! お代わり!」 聖女ルミナ(引退して食道楽の旅人になった)がラーメンをすすっている。


「余のチョコはまだか! カカオを山ほど持ってきたぞ!」 魔王グラトニーが、背中にカカオ豆の袋を担いで列に並んでいる。


そこには、かつて敵対していた者も、種族の壁もなかった。 あるのは、一つの大きなテーブルと、湯気を立てる美味しい料理だけ。


「行こう、セリア。みんなが待ってる」


「はい、あなた」


俺は泥だらけの手を洗い、愛する妻と共に、仲間たちの待つ食卓へと歩き出した。 テーブルには、おにぎり、味噌汁、寿司、カレー、ラーメン、すき焼き、そしてチョコレート。 俺がこの世界で作り上げた、宝物の山が並んでいる。


俺は席に着き、ジョッキを掲げた。 みんなもそれに続く。


空は青く、風は心地よい。 腹は減っている。 飯は美味い。 これ以上の幸せが、どこにあるだろうか。


俺は満面の笑みで、世界中に響くように叫んだ。


「さあ、みんな――」


「「「いただきます!!!!」」」

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