54.暴食の王、降臨
「ええい、浅ましいぞ貴様ら! 魔族の誇りを忘れたか!」
混乱する戦場に、空間を引き裂くような轟音が響いた。 黒い雷と共に、巨大な玉座が出現する。 そこに座っていたのは、身長3メートルはある巨漢。ねじれた角と、漆黒のマントを纏った魔界の支配者。
魔王グラトニーだ。
「我が名はグラトニー! 全ての食を統べる暴食の王なり!」
魔王が立ち上がると、その威圧感だけで風が止まった。 ギガン将軍ですら冷や汗を流して後ずさる。
「貴様がこの地の長か? 矮小な人間よ」
魔王の赤い瞳が俺を射抜く。
「単刀直入に言おう。我らは飢えている。魔界の土は死に、水は腐り、食えるものといえばゴムのような魔獣の肉のみ……。限界だ」
魔王が苦しげに腹を押さえる。 ゴゴゴゴ……と、地鳴りのような腹の虫が鳴いた。
「この地には『黄金の穀物』や『とろける肉』があると聞いた。それを全て我らに献上せよ。さもなくば、この国を更地にし、最後の一粒まで奪い尽くす!」
典型的な暴論だ。 だが、その言葉の裏には、種族存亡をかけた必死さがある。
「断る」
俺は一歩前に出た。
「奪われるのは御免だ。俺たちの食卓は、俺たちが守る」
「ならば死ね!」
魔王が手を振り上げ、暗黒魔法を放とうとする。
「だが!」
俺は大声で遮った。
「『客』としてなら歓迎するぞ、魔王さんよ」
「……何?」
「アンタ、魔界の飯が不味いって言ったな? なら、俺が作る『本物の料理』を食ってみろ。もしそれで満足したら、奪うのはナシだ。代金を払って大人しく帰れ」
「ふん、人間風情の料理で、この魔王の舌を満足させられるとでも?」
「できるさ。俺はこの数年、世界中の美味いものを集め、究極のメニューを完成させたからな」
俺は不敵に笑い、特設キッチンの暖簾を指差した。
「さあ、座りな。ガレ公国特製、『懐石フルコース』の始まりだ」




