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53.腹ペコ軍団の襲来

「……来たな」


ガレ公国の見張り台。 俺は北の空を埋め尽くす「黒い雲」を見上げていた。 いや、雲ではない。それは空を飛ぶガーゴイルやワイバーンの大群であり、地上を埋め尽くす魔族の重装歩兵団だ。 その数、およそ十万。 世界を三回は滅ぼせる戦力だ。


「総員、戦闘配置! 結界を最大出力で展開しろ!」


騎士団長となったセリアが叫ぶ。 ギガン将軍率いる鉄竜騎兵団、聖女ルミナの神聖魔法部隊、エリル王女のエルフ弓隊。 世界最強の防衛ラインが敷かれているが、相手は伝説の「魔王軍」。緊張で空気が張り詰めている。


「ガハハ! 魔王がついに動きおったか! だが、この地の美味い飯は渡さんぞ!」 ギガンが戦斧を構える。


「不潔な闇の眷属たち……。私の『激辛浄化魔法カプサイシン・ホーリーレイ』で焼き尽くします」 ルミナが物騒なことを呟く。


ズズズン……!


魔王軍の先鋒が、ガレの領境、農地エリアに到達した。 誰もが戦闘開始を覚悟した、その時だった。


「「「うおおおおおおぉぉぉッ!!」」」


魔族たちが雄叫びを上げた。 そして、武器を放り投げ、畑に突っ込んだ。


バリボリッ! ムシャムシャッ!


「!?!?!?」


セリアが目を剥く。 オークやゴブリンたちが、畑になっていたキュウリやトマトをもぎ取り、涙を流して齧り付いているのだ。


「うめぇ! なんだこの緑のキュウリは! 水気がたっぷりで甘いぞ!」 「こっちの赤いトマトもすげぇ! 口の中で酸味が弾けやがる!」 「水だ! 川の水が泥じゃねぇ! 透き通ってやがる!」


彼らはまるで、砂漠でオアシスを見つけた遭難者のようだった。 殺気など微塵もない。あるのは、純粋で悲痛な「空腹」だけだ。


「……アレク様。これは一体?」


「見ろよセリア。あいつらの痩せこけた体を」


俺は望遠鏡を下ろした。 屈強なはずのオークはあばら骨が浮き、ガーゴイルは飛ぶのもやっとの状態だ。


「侵略じゃない。こいつらは『難民』だ。不毛な魔界で食い物が尽き、死に物狂いでここまで来たんだよ」


俺は武器(調理器具)を構え直した。 腹を空かせた奴が目の前にいる。なら、農家としてやることは一つだ。

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