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52.ガレ公国の誕生

翌日。 ガレの迎賓館(新築の和風建築)にて、歴史的な会談が行われた。


上座に座るのは、俺と、ギガン将軍、聖女ルミナ、エリル王女。 そして下座には、すっかり毒気の抜けた(そして腹が満たされた)国王が小さくなって座っている。


「……認めよう。余の完敗だ」


国王は深々と頭を下げた。


「ガレの地は、王家の手には余る。アレクよ、この地の統治権を正式に貴様に譲渡する。……独立を認める」


「賢明な判断です、陛下」


俺は用意していた羊皮紙を差し出した。


「ですが、完全に縁を切るわけじゃありません。これは『食料援助条約』の草案です」


「援助……だと? 余を助けてくれるというのか?」


「ええ。ただしタダじゃありません。正規の価格で買い取ってもらいます。あと、魔法による無理な耕作を禁止し、土壌改良の指導を受け入れることが条件です」


国王は震える手で契約書を受け取り、涙を流して感謝した。 これで王都の飢餓も救われるだろう。


「さて、独立となると、国の名前と肩書きが必要だな」


ギガン将軍が腕を組む。


「アレク殿は、一国の王となるのだ。相応の呼び名が要る」


「いや、俺は『大農場長グランド・ファーマー』とかでいいんだが……」


俺が提案すると、全員から即座に却下された。


「却下だ。他の国になめられる」(ギガン) 「美しくないわ。もっと優雅な名前にしなさい」(エリル) 「不潔な響きです。もっと神聖な……例えば『食の聖王』などはどうですか?」(ルミナ)


「いや、聖王は重すぎるだろ……」


すったもんだの議論の末、妥協案がまとまった。


国名は「ガレ公国」。 大陸のどの国にも属さず、食の力で平和を維持する永世中立国。 そして俺の肩書きは、初代「ガレ公王」となった。 (本当は「村長」が良かったのだが、セリアが「私が公王騎士団長になりたいので!」と譲らなかったのだ)


こうして、泥だらけの開拓地は、世界で最も美味い国へと生まれ変わった。


戴冠式の夜。 俺は屋敷のベランダで、セリアと共に夜風に当たっていた。


「公王陛下。……ふふっ、まだ慣れませんね」


「よしてくれ。中身はただの農家のあっちゃんだ」


俺は苦笑しながら、平和になった夜空を見上げた。 陸の幸、海の幸、そして国の独立。 やりたいことは、ほぼ全て成し遂げた。


「……だが、嫌な予感がするんだ」


「予感、ですか?」


「ああ。『観察眼』がざわつく。この世界のどこかに、まだとんでもない『飢え』を感じるんだ」


俺の勘は、残念ながら的中することになる。


   ◇


遥か北の果て。 人間が決して足を踏み入れない、常闇の領域「魔界」。


その最深部にある玉座で、一人の存在が目を覚ました。


「……腹が、減った」


闇の底から響く、地響きのような声。 魔王だ。 人類の天敵であり、全ての生命を脅かす恐怖の象徴。


だが、今代の魔王は、少し様子が違っていた。


「なぜだ……。なぜ魔界の飯は、こんなにも不味いのだ……」


彼の手には、ドス黒い色をした、ゴムのように硬い魔獣の肉が握られていた。


「聞けば、人間界には『すき焼き』なる、とろけるような甘露の肉料理があるというではないか……」


ゴゴゴゴゴ……。 魔王の腹が、雷鳴のように鳴り響いた。


「許せぬ……人間どもだけが、そのような美味いものを独占するなど……!」


魔王が立ち上がる。 その背後に、無数の魔族軍団が整列した。


「全軍、進撃せよ! 人間界を蹂躙し、その『食の楽園』を我が手中に収めるのだ! ……あと、お土産に『ラーメン』と『カレー』も忘れるなよ!」

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