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51.溶ける肉、溶ける敵意

「う、ううっ……うまい、うますぎる……!」


戦場の中央で、一国の王が茶碗を抱えて号泣しながら肉と米を掻き込む。 その姿は、どんな降伏宣言よりも雄弁だった。


「余は……間違っていたのか……。魔法で土地を痩せさせ、民を飢えさせ……。それに引き換え、この肉の豊かさはどうだ。この米の輝きはどうだ……」


国王は、涙と鼻水と卵の黄身で顔をぐちゃぐちゃにしながら、アレクを見上げた。


「これが……『土』の力だというのか……」


「ええ、そうです陛下」


俺は次の肉を鍋に入れながら、静かに答えた。


「魔法は便利ですが、万能じゃありません。命を育むのは、いつだって泥臭い土と、手間暇かけた愛情なんです」


ジュワァァァ……ッ。


再び響く、肉の焼ける音。 その音は、王都軍の兵士たちの理性を完全に粉砕した。


カラン……コロン……。


誰かが剣を取り落とした。それが合図だった。 次々と武器が捨てられ、兵士たちがその場にへたり込む。


「もう……無理だ……」 「降参だ……。頼む、一口でいい、その肉を食わせてくれ……」


三万の軍勢が、食欲の前に完全敗北した瞬間だった。


「よし、セリア! 第二段階だ! すき焼きは時間がかかるから、あれを出すぞ!」


俺が合図を送ると、待機していたコボルト隊が、巨大な寸胴鍋を乗せた荷車を何台も引いて現れた。


「野郎ども! アレク様特製、煮込み済みの『牛丼』だワン! 並べ並べーッ!」


鍋の蓋が開けられると、甘辛く煮込まれた牛肉と玉ねぎの香りが爆発的に広がった。 すき焼きの簡易版、しかし破壊力は同等のファストフードだ。


「うおおぉぉぉッ!」 「飯だァァァッ!」


兵士たちが雪崩を打って炊き出しの列に並ぶ。 もはや彼らに戦意はない。あるのは「つゆだくで頼む!」という熱意だけだ。


「……見事な手際だな、アレク殿」 ギガン将軍が感心したように頷く。


「これだけの人数を瞬時に餌付けするとは。我が軍の兵站へいたんも見習わせたいものだ」


「あら、私たちの協力があってこそよ」 エリル王女が、エルフの魔法で炊き上げた大量の米俵を指差す。


「不潔ですが……認めざるを得ませんね。この香りの前では、どんな信仰も無力です」 聖女ルミナも、こっそり牛丼の列に並びながら呟いた。


こうして、歴史上類を見ない「すき焼き戦争」は、死者ゼロ、満腹者三万名という結果で幕を閉じた。

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