47.招かれざる勅命
「……ふざけるな」
ガレの領主館(といっても、コンクリートと世界樹で作った頑丈な平屋だが)。 その応接室で、俺は羊皮紙の書状を机に叩きつけた。
「アレク様、落ち着いてください。使者殿が怯えています」
セリアが苦笑しながら、震えている王都からの使者に水を差し出す。 だが、俺の怒りは収まらなかった。
書状の内容はこうだ。 『旧グラナード辺境伯領、現ガレ村の統治権を即時、王家に返還せよ。また、現在保有している全ての食料備蓄、家畜、および農業技術を無条件で献上せよ。拒否すれば、反逆罪として三万の王都軍を差し向ける』
「盗っ人猛々しいとはこのことだ。実家の親父たちが自滅して、食い物がなくなったから、今度は俺たちの努力の結晶を横取りしようってか?」
「……お言葉ですが、アレク殿」
使者の男が、脂汗を拭いながら口を開いた。
「王都の状況は深刻なのです。グラナード家が没落した後、無理な魔法耕作の反動で土地が死に、大飢饉が起きています。民は飢え、陛下もまた……焦っておられるのです」
「だからといって、奪っていい理屈にはならん。俺たちは泥を啜り、汗を流してこの荒野を楽園に変えたんだ。王家からの援助なんて、種籾一粒だって貰っちゃいない」
俺は立ち上がり、窓の外を見た。 黄金色に輝く稲穂。 のんびりと草を食む牛太郎とその一族。 そして、ラーメンやすき焼きの匂いが漂う、活気ある街並み。
これを、あの無能な王族たちに渡せばどうなるか。 また魔法で無理やり搾取し、数年でこの地を死の砂漠に変えるだろう。 それだけは、農家の魂にかけて許せない。
「使者殿。陛下に伝えろ」
俺は冷徹に告げた。
「『ガレは渡さん。欲しければ奪いに来い。ただし、その時はただで済むと思うなよ』とな」
使者は顔を青ざめさせ、逃げるように去っていった。 これで、戦争は確定した。
「よろしいのですか、アレク様。相手は腐っても一国の王。三万の軍勢となれば、ガレの警備隊だけでは……」
「勝算はある。それに、俺は戦うつもりはない」
俺はニヤリと笑った。
「腹を空かせた客人が来るんだろ? なら、最高のご馳走でもてなしてやるのが『農家の流儀』だ」
「ご馳走……ですか? まさか、例のアレを?」
「ああ。肉料理の王様、全ての食材のオーケストラ……『すき焼き』だ」




