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46.透き通る黄金

ナギサの村の広場。 大鍋の前に、村人たちが集められていた。 彼らはクラーケンのイカ焼きや煮付けを食べて腹一杯のはずだが、俺が「本当の海の味を教えてやる」と言ったので、興味津々で集まってきたのだ。


「いいか、よく見とけ。これが錬金術よりも尊い、『出汁引き』の儀式だ」


俺は大鍋に水を張り、オバケ昆布を入れて火にかけた。 沸騰直前。昆布の表面に小さな気泡がついた瞬間に、昆布を引き上げる。 これが鉄則だ。煮出しすぎれば雑味が出る。


そして、火を止めて一呼吸置き、削りたての鰹節を一気に投入する。


ファサァァァ……。


鍋の中で、鰹節が踊る。 湯気と共に立ち上る香りが、潮風と混ざり合い、村人たちの鼻孔をくすぐる。 鰹節が沈んだら、布で静かにす。


残った液体は、透き通った琥珀色。


「黄金の出汁ゴールド・スープ……!」


誰かが呟いた。 そこに、塩と少しの薄口醤油(ガレ産)を加え、味を整える。 具材はシンプルに。甘辛く煮た油揚げ(キツネ)と、先ほど釣り上げたクラーケンの足を揚げた「ゲソ天」。 そして、ガレ産の小麦で打った、太くて白い「うどん」。


「完成だ。『特製クラーケン天ぷらうどん』!」


ドンッ、と置かれた丼。 透き通ったつゆの中に、白いうどんが泳ぎ、巨大な天ぷらが鎮座している。


「さあ、食ってみろ村長。これがアンタたちが守ってきた海のエキスだ」


村長は震える手で丼を受け取り、まずはつゆを一口啜った。


ズズッ……。


「…………ぁ」


村長の目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。


「なんだ……これは……」


彼は震える声で言った。


「優しい……。なんと優しい味じゃ……。ワシらは海を恐ろしい場所だと思っておった。魔物が住み、人を飲み込む地獄だと……。だが、海の本性は、こんなにも温かく、深い味だったのか……」


昆布のグルタミン酸と、カツオのイノシン酸。 その相乗効果が、村長の疲弊した心に染み渡っていく。


「美味い……! 美味いぞぉぉぉ!」


村長が叫ぶと、他の漁師たちも次々とうどんに食らいついた。 クラーケンの天ぷらはサクサクで、中はプリプリ。うどんはモチモチ。そして何より、出汁が美味い。


「あんちゃん! ありがとう! 俺たちはこの海で生きていくよ!」 「また船を出すぞ! こんな美味い魚がいるなら、イカごときにビビってられるか!」


村全体が、活気を取り戻していく。 ただ腹を満たすだけではない。食は、人々の魂を救うことができるのだ。


「ふぅ……。満足したか、セリア」


俺は空になった丼を置き、海を見つめた。 隣でうどんを啜り終えたセリアが、満足げに微笑む。


「はい。海は最高ですね。……でもアレク様、これで食材はほぼ揃ったのではありませんか?」


米、野菜、肉、乳製品、そして魚介と出汁。 和食に必要なものは、あらかた手に入れた。


「そうだな。ガレはもう、単なる開拓村じゃない。世界一の美食都市だ」


俺は拳を握った。 だが、物が揃えば、次はそれを守り、発展させるための「力」と「枠組み」が必要になる。


「セリア、帰るぞ。忙しくなる」


「次は料理ですか?」


「いや。そろそろ、この素晴らしい食卓を守るための『国』を作る時が来たようだ」


俺の言葉に、セリアは驚き、そしてすぐに騎士の顔に戻って頷いた。


「建国、ですね。……どこまでもお供します、国王陛下(予定)」


俺たちの「泥の聖者」としての旅は終わり、次なる「建国と独立」の物語が幕を開けようとしていた。 美味しいご飯を、誰にも邪魔させないために。

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