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45.世界一硬い石

「お、おい……本当に倒しちまったぞ……」 「あのバケモノを、一本釣りだと……?」


「大漁丸」がナギサの港に帰還すると、村人たちは呆然と立ち尽くしていた。 船の後ろには、ロープで牽引されたクラーケンの巨体が横たわっている。港に入り切らないほどの大きさだ。


「さあ、約束通りこのデカイカはくれてやる! 刺身でも天ぷらでも、村のみんなで食い放題だ!」


俺が叫ぶと、ようやく村人たちは我に返り、「うおおおぉぉッ!」と歓声を上げてイカに殺到した。 だが、俺の仕事はこれで終わりではない。むしろここからが本番だ。


「セリア、コボルト隊! イカの解体は村人に任せろ。俺たちは『本命』を確保するぞ!」


俺たちがクラーケン退治のついでに獲ってきたもの。 それは、クラーケンがいなくなったことで再び姿を現した、この海の真の宝だ。


「まずはこいつだ。『オバケ昆布』!」


俺が船倉から引きずり出したのは、長さ数メートルはある巨大な昆布だ。 分厚く、黒々と輝いている。魔力を帯びているため、通常の昆布の何倍ものグルタミン酸を含んでいる。


「そして、これだ。『弾丸カツオ』!」


続いて取り出したのは、丸々と太ったカツオの群れ。 泳ぐ速度が速すぎて、普通の網では捕らえられない幻の魚だ。


「これを加工する。目指すは世界一硬い発酵食品、『本枯れほんかれぶし』だ!」


   ◇


そこから、ナギサの村の一角を借りて、俺の怪しい実験(調理)が始まった。


カツオを捌き、煮て、骨を抜き、煙でいぶす。 水分を抜き、旨味を凝縮させる「焙乾ばいかん」の工程だ。 燻製のいい香りが漂うが、まだ食べない。


「ここからが魔法だ。カビを付ける」


「またカビですか!? アレク様、本当にカビが好きですね……」


セリアがげんなりするが、俺は構わず優良なコウジカビの一種を噴霧し、天日干しにする。 本来なら半年かかる工程だが、エリル王女から借りてきた「時を早める魔道具(ドライヤー代わり)」と、俺の農民スキルのごり押しで、数日に短縮して仕上げた。


そして、完成したのが――。


「……アレク様。これは、何ですか?」 「木片? それとも鈍器ですか?」


セリアが、その茶色くてゴツゴツした物体をつまみ上げた。 見た目は完全に「木」か「石」だ。


「鰹節だ」


俺は二本の鰹節を手に取り、互いに打ち付けた。


カーン! カーン!


高く、澄んだ金属音が響き渡った。


「いい音だろ? この音がすれば完成だ。世界一硬い食品の誕生だ」


「食べ物!? 嘘でしょう? 歯が折れますよ!」


「そのまま齧る馬鹿がいるか。こいつは『削る』んだよ」


俺はガンテツに作らせた「鰹節削り器」を取り出し、シュッシュッとリズミカルに削り始めた。 すると、まるで花びらのような薄紅色の削り節が、ハラハラと舞い落ちる。


瞬間。 芳醇で、濃厚で、どこか懐かしい「燻製と魚の香り」が爆発した。


「ああ……いい匂い……」


セリアがうっとりと目を閉じる。 これだ。この香りこそが、和食の魂だ。

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