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42.呪われた漁村

ガレから山脈を越え、馬車で数日。 潮の香りが強くなってきた頃、俺たちは海沿いの小さな漁村「ナギサ」に到着した。


「うわぁ……! 海です! 本当に水が一面に広がっています!」


初めて海を見るセリアが、水平線を見て目を輝かせる。 コボルトたちも「デカイ水溜まりだワン!」「しょっぱいワン!」とはしゃいでいる。


だが、俺の目は別のものを見ていた。 村の様子がおかしい。 浜辺には壊れた船の残骸が打ち上げられ、網は破れたまま放置されている。 村人たちは痩せ細り、虚ろな目で海を見つめているだけだ。


「……活気がないな」


俺たちが村に入ると、一人の初老の男が足を引きずりながら近づいてきた。 村長のようだ。


「旅の方……。悪いことは言わねぇ、引き返しなされ。ここはもう『死に体』の村だ」


「どういうことだ? こんなにいい海があるのに、漁をしないのか?」


俺が尋ねると、村長は恐怖に顔を歪めて海を指差した。


「できねぇんだよ……。『ぬし』が怒り狂ってなさるんだ」


「主?」


「ああ。数ヶ月前から、巨大な魔物……『大王イカ』が住み着いたんだ。船を出せば沈められ、漁師は海に引きずり込まれる。我々はもう、海に近づくことさえできねぇ」


村長の言葉に、セリアが剣の柄に手をかける。 クラーケン。 海の魔物の中でも最大級の厄介者だ。その触手は鋼鉄のように硬く、船をへし折る怪力を持つ。


「なるほど。それで村が飢えているわけか」


俺は顎に手を当て、海を見つめた。 そして、ニヤリと笑った。


「そいつは好都合だ」


「は? 好都合?」


村長が目を丸くする。


「巨大イカか……。つまり、あの海には『巨大なイカ焼き』と『イカの天ぷら』、そして出汁の王様たちが眠っているわけだ」


俺は村長の肩をポンと叩いた。


「安心してくれ、村長。その『主』とやらは、俺たちが美味しく頂いてやる」


「な、何を言ってるんだあんた!? 相手は化け物だぞ! 普通の船じゃ、一撃で木っ端微塵だ!」


「普通の船ならな。……だが、俺たちが乗るのは『世界樹』と『コンクリート』で作った不沈艦だ」


俺は後ろに控えていたガンテツに合図を送った。


「親父さん、出番だ。エルフの姫さんから巻き上げた世界樹の巨木を使って、最強の漁船を建造するぞ!」


「おうよ! 久々の造船か、血が騒ぐわい!」


俺たちの非常識な提案に、漁村の人々は開いた口が塞がらない様子だった。 だが、彼らはまだ知らない。 食い意地の張った農家が、どれほど恐ろしい力を発揮するかを。

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