41.旨味の方程式
「……惜しい。何かが足りない」
ガレの領地、ラーメン横丁の本店。 営業終了後の店内で、俺は試作のスープを啜り、腕組みをして唸っていた。
「十分美味しいと思いますけど……。牛骨のコクも、醤油のキレも完璧ですよ?」
隣で片付けをしていたセリアが、不思議そうに首を傾げる。 確かに美味い。行列ができるのも納得の味だ。 だが、俺の「日本人の舌」は、もっと深い、魂を震わせるような味覚体験を求めていた。
「単体では完璧だ。だが、今のスープは『足し算』でしかない。俺が求めているのは、素材同士が互いを高め合い、爆発的な美味を生み出す『掛け算』……すなわち相乗効果だ!」
俺は立ち上がり、黒板に化学式のような図を描き始めた。
「いいかセリア。この世には三大旨味成分がある。 野菜や昆布に含まれる『グルタミン酸』。 肉や魚に含まれる『イノシン酸』。 そしてキノコに含まれる『グアニル酸』だ」
セリアがポカンとしているが、構わず続ける。
「今のウチのスープは、肉(イノシン酸)と野菜(グルタミン酸)を使っているが、まだ弱い。特に『海』の力が圧倒的に足りないんだ!」
「海、ですか?」
「そうだ。海の底で育った『昆布』と、黒潮に乗って泳ぐ『カツオ』。この二つが出会った時、旨味は7倍から8倍に跳ね上がる。これを『出汁の奇跡』と呼ぶ!」
俺は熱弁を振るい、壁に貼られた地図の海岸線をバシッと叩いた。
「味噌汁も、煮物も、うどんも、全てはこの『黄金の出汁』があって初めて完成する。……行くぞセリア。俺たちは海へ行く」
「はぁ……。つまり、海水浴に行きたいという口実ですね?」
「違う! 食育だ! コボルト水泳部隊と、ガンテツ親父も呼べ! 船を作るぞ!」




