3.折れる常識、折れる鉄
結論から言おう。 物理は負けた。
ガィィィィィン!!
嫌な金属音が荒野に響き渡る。 俺の手には、柄の途中から無残にへし折れ、刃先がひしゃげたクワが握られていた。 対して、地面の岩盤には傷一つついていない。白い線がうっすら入った程度だ。
「……嘘だろ」
俺の手は痺れ、掌の皮がむけて血が滲んでいる。 全力で振り下ろした結果がこれだ。
「だから言ったではありませんか」
後ろで腕を組んで見ていたセリアが、呆れ声で言った。
「魔断層の硬度は鋼鉄以上です。普通の鉄でどうにかなる相手ではありません。諦めてください」 「……まだだ。角度が悪かっただけかもしれない」
俺は予備のスコップ(二本目)を取り出し、今度は切っ先を岩の裂け目にねじ込もうとした。
バキッ。
今度は音もなく折れた。
「…………」 「…………」
沈黙が痛い。 俺は折れたスコップの残骸を見つめながら、冷や汗を流していた。 甘かった。前世の知識があれば何とかなると思っていたが、ここは異世界だ。物理法則を超えた硬さが存在したのだ。
(トラクターがあれば……いや、この硬さじゃトラクターの刃も欠けるな。ドリルか? 削岩機が必要か?)
だが、俺には魔力がない。魔導具のドリルなど動かせるはずもない。
「アレク様。日が暮れます。岩喰い猪が近づいてきている」 「……セリア。この近くに、街はあるか?」 「は? ええ、山を二つ越えた先に『アイアンサイド』という鉱山街がありますが……」
アイアンサイド。 聞いたことがある。かつては良質な鉄鉱石が採れ、武具の生産で栄えた街だ。だが、平和になった今では需要が減り、寂れていると聞く。
「そこだ。そこに行こう」 「行ってどうするのです? 王都へ帰る馬車を手配しますか?」
セリアの問いに、俺は首を振った。 そして、折れたクワの刃先を拾い上げ、ギラついた目で笑った。
「まさか。この程度でへこたれるかよ」
俺の頭の中には、すでに新しい設計図が浮かんでいた。 普通の鉄が負けるなら、それ以上の鉄を使えばいい。 真っ直ぐ振り下ろして折れるなら、衝撃を逃がす構造にすればいい。
「道具がないなら、作ればいい。この岩盤を豆腐みたいに切り裂く、世界最強の農具をな」 「……はい?」
セリアが間の抜けた声を出す。
「行くぞセリア! 鉱山街で、一番腕のいい……そう、一番頭のおかしい鍛冶師を探すんだ!」 「ちょ、待ってください! もう、勝手に歩き出さないでください!」
俺は小走りで駆け出した。 逆境? 上等だ。 簡単に耕せる土なんて面白くない。 このクソ硬い岩盤を攻略してこそ、プロの農家というものだ。
こうして俺は、運命の出会いとなる「偏屈な鍛冶師」の元へと向かうことになった。




