38.黄色い縮れ麺
「ここだ。間違いない」
ガレの領地から少し離れた、岩塩鉱山近くの塩湖。 そのほとりで、俺は白い結晶が混じった水を指ですくい、舐めた。
「しょっぱい……だけでなく、苦味とえぐみがある。そしてヌルヌルする。強アルカリ性だ」
「ペッ、ペッ! 不味いですよアレク様! こんな泥水、料理に使うんですか?」
同行したセリアが顔をしかめて吐き出す。 だが、俺は歓喜に震えていた。 これだ。炭酸ナトリウムと炭酸カリウムを含んだ天然の水。 中華麺にコシと色を与える魔法の水、「かんすい」だ。
「セリア、これはただの水じゃない。小麦粉と出会うことで奇跡を起こす『触媒』なんだよ」
◇
屋敷に戻った俺は、すぐに製麺作業に取り掛かった。 ガレ産の強力粉(グルテン多め)に、汲んできたかんすいを少しずつ加える。
すると、どうだ。 真っ白だった小麦粉が、化学反応を起こして鮮やかな「黄色」に変色し始めた。
「色が……変わりました!? 卵も入れていないのに!」
「そしてここからが重要だ。コシを出すために、徹底的に鍛え上げる!」
俺は生地を布で包み、床に置いた。
「コボルト隊! 踏め! 親の仇のように踏みつけるんだ!」
「ワンッ! フミフミするワン!」
集められたコボルトたちが、リズミカルに生地を踏みつける。 うどん作りと同じ要領だ。彼らの強靭な脚力と適度な体重が、生地の中のグルテン網を強化し、強烈な弾力を生み出していく。
数時間後。 踏み固められ、熟成された生地を、ガンテツ特製の製麺機(パスタマシンに似たハンドル式カッター)に通す。
ニュルニュルニュル……。
出てきたのは、四角い断面の黄色い麺。 だが、これで終わりではない。 俺はその麺を手で優しく、しかし力強く揉み込んだ。
「これぞ『手揉み』! このウェーブがスープを絡め取るんだ!」
そして、沸騰した大鍋に投入。 数分後、ザルで湯切りをする。
チャッ、チャッ!
湯気と共に立ち上る、あのかんすい特有の匂い。 茹で上がった麺は、透き通るような黄色で、プリプリと縮れている。
「食ってみろ、セリア」
一本差し出すと、彼女はチュルリと吸い込んだ。
「……っ! 弾力が違います! 歯を押し返すようなモチモチ感、そしてツルッとした喉越し! パスタともうどんとも違う、新しい食感です!」
「成功だ。これぞ『中華麺』だ!」
俺はガッツポーズをした。 器は揃った。あとは魂を吹き込むだけだ。




