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36.麺とスープの探求

「違う……。これじゃないんだ……!」


ガレの領地、新たに建設された「製粉所」。 水車の動力で回る石臼の前で、俺は挽き終わったばかりの小麦粉を手に取り、苦悶の声を漏らしていた。


「アレク様? 十分すぎるほど白い粉ですよ? この小麦で作ったパンは、王都の貴族も行列を作るほどの絶品ではありませんか」


セリアが不思議そうな顔で、焼き立てのパン(フワフワの食パン)を齧っている。 確かに、パンとしては最高だ。品種改良と製粉技術の向上により、グルテンの粘りも香りも申し分ない。 だが、俺が求めているのは「パン」ではない。


「コシだ、セリア。俺が欲しいのは、噛んだ瞬間に押し返してくるような弾力と、ツルリと喉を駆け抜ける滑らかさ……。そう、黄色く輝く『縮れ麺』なんだ!」


俺は虚空に箸を持つ仕草をして、ズルズルと空気をすすった。 ラーメン。 カレーと並ぶ、日本人の国民食。 醤油、味噌と調味料は揃った。具材となる野菜や煮玉子も用意できる。 だが、肝心の「麺」と「スープ」が決定的に足りていない。


「ただ小麦粉を練って伸ばしただけじゃ、うどんやパスタにはなっても、中華麺にはならない。独特の黄色みとコシ、そして香り……それを生み出す魔法の粉『かんすい』が必要なんだ」


「カンスイ……? また変な名前の粉ですね」


「アルカリ性の塩水だよ。近くの塩湖あたりで採れるはずなんだが……。それと、もっと深刻なのがスープだ」


俺は窓の外、広がる畑を見渡した。 野菜は豊富だ。だが、動物性タンパク質が圧倒的に足りない。 ロックイーター(巨大イノシシ)は美味しいが、個体数が減ってきたし、野生なので脂の乗りにバラつきがある。 ラーメンの命である、濃厚でクリーミーな白湯パイタンスープを作るには、大量の「ガラ(骨)」と「背脂」が必要なのだ。


「家畜が必要だ。それも、とびきりデカくて、脂の乗った牛か豚の群れが」


俺が溜息をついた、その時だった。


「アレク様! 大変です! 西の開拓地から緊急連絡!」


コボルトの伝令兵が、血相を変えて飛び込んできた。


「赤い悪魔が出たワン! 『レッド・バイソン』の大群だワン! せっかく耕した小麦畑が、奴らのひづめでメチャクチャに踏み荒らされてるワン!」


レッド・バイソン。 赤い毛並みを持つ巨大な野牛型の魔獣だ。気性が荒く、群れで暴走スタンピードすれば、城壁すら粉砕する災害級のモンスター。


「被害状況は!?」


セリアが剣を掴んで立ち上がる。


「今のところ人的被害はないですが、冒険者の討伐隊が蹴散らされました! しかも、群れを率いているのは……体長5メートルを超える変異種、『牛王ビースト・キング』です!」


「牛王……!」


セリアが息を呑む。 通常のバイソンでも厄介なのに、その王となれば、Aランク相当の化け物だ。


「全軍出撃準備を! ギガン将軍にも援軍を要請しましょう! アレク様、すぐに避難の指示を……アレク様?」


セリアが振り返ると、俺はヨダレを拭いながら、爛々とした目で西の空を睨んでいた。


「……でかい牛、だと?」


「はい?」


「5メートル……。骨の太さ、肉の量、そして脂の厚み……。想像しただけで震えが来るな」


俺の頭の中では、すでに巨大な寸胴鍋の中で、牛王の骨がグツグツと煮込まれ、極上の牛骨スープになっている光景が広がっていた。


「アレク様、まさか……」


「行くぞセリア! コボルト隊、出撃だ! 目的は討伐じゃない、『捕獲』だ! 俺の牧場へご招待するぞ!」


「やっぱりィィィッ!」


セリアの悲鳴を背に、俺は「飼料袋」を担いで走り出した。

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