28.世界樹の建築ラッシュと、種族を超えた宴
「おーい、アレク! 持ってきたわよー!」
翌日、エリル王女は約束通り、森の仲間たちを引き連れて戻ってきた。 彼女たちが引きずっているのは、艶やかな白銀色の樹皮を持つ、巨大な丸太の山だ。
「……おい、エリル。これが『剪定した枝』か?」
俺は目の前の巨木を見上げて呆然とした。 直径は1メートル、長さは10メートル以上ある。どう見ても「枝」ではない。御神木クラスの大木だ。
「ええ。世界樹様は成長が早いですから、これくらい切らないと森が日照不足になるんです。人間にとっては貴重なんですか?」
「貴重どころか、国宝級だ。これ一本で城が建つぞ」
世界樹の木材。 鉄よりも硬く、羽毛のように軽く、そして強力な魔力耐性と自動修復機能を持つ、ファンタジー界最強の建材だ。 それが「ゴミ処理」感覚で大量に持ち込まれたのだから、頭が痛くなる。
「約束通り、これ全部あげるわ。だから……あのお酒、樽ごと頂戴!」
エリルが尻尾を振らんばかりに目を輝かせている。 エルフ族の酒への執着、恐るべし。
「商談成立だ。……よし、ボルグ長老! ガンテツ親父! 出番だぞ! 最高級の素材が手に入った!」
◇
そこからは、異次元の建築ラッシュが始まった。
「基礎は俺たちにお任せだワン! コンクリートでガッチリ固めるワン!」 コボルト工兵隊が、正確無比な測量で基礎を打つ。
「柱の加工は任せろ! 世界樹は硬いが、ミスリルの鋸なら切れる!」 ガンテツ率いる鍛冶師グループ(噂を聞きつけた弟子たちが戻ってきていた)が、鉄骨と金具を作る。
「仕上げは私たちがやるわ! 精霊魔法『ウッド・シェイプ』!」 エリルたちエルフ族が、魔法で木材を加工し、美しい彫刻や曲線美あふれるデザインを施していく。
【コンクリートの頑丈さ】×【世界樹の耐久性】×【エルフの美的センス】。 これらが融合した結果、ガレの領地には「高級リゾートホテル」のような、白亜と木目が調和した美しい住宅街が爆誕した。
「……すごいです。王都の貴族街より綺麗かも」
完成した街並みを見て、セリアがため息をつく。 下水道も完備(俺のこだわり)、断熱性も抜群。まさに夢のマイホームだ。
そして夜。 新築祝いを兼ねた大宴会が開かれた。
「ガハハハ! これが噂の『サケ』か! ガツンと来るのに後味はスッキリだ! 進む進む!」
「ちょっと筋肉ダルマ(ギガン)! 私の分まで飲まないでよ! それはエルフ専用なんだから!」
広場では、ガリア帝国のギガン将軍(醤油を買い付けに来ていた)と、エリル王女が、酒樽を挟んで喧嘩しながら飲み明かしている。 その横では、コボルトたちが焼き魚を頬張り、ガンテツがエルフに酌をさせてデレデレしている。
人間、亜人、他国の将軍。 種族も立場も違う彼らが、同じ釜の飯を食い、同じ酒を酌み交わしている。 かつて「死の土地」と呼ばれた場所が、今や世界で一番温かい場所になっていた。
「いい光景だな」
俺はおにぎりを齧りながら、その様子を眺めていた。 平和だ。 だが、光が強ければ強いほど、影もまた濃くなることを、俺は忘れてはいなかった。




