表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/45

24.鉄血将軍ギガン

「……アレク様。北の街道より、多数の熱源が接近中。その数、五千を超えます」


醤油と冷奴の宴から数日後。 見張り台に立っていたセリアが、青ざめた顔で報告に飛び込んできた。 彼女の手には望遠鏡が握られているが、それが震えているのが見て取れる。


「五千だと? 盗賊団にしては数が多すぎるな」


俺は作業の手を止め、眉をひそめた。 ガレの領民は、コボルトを含めても五百人程度。十倍の戦力差だ。


「盗賊ではありません。あの旗印……『黒地に紅の竜』。隣接する軍事大国、ガリア帝国の正規軍です!」


ガリア帝国。 大陸の北半分を支配する覇権国家だ。「力こそ正義」を国是とし、圧倒的な武力で周辺諸国を飲み込んできた戦闘民族の国。 実家の辺境伯領など目もくれず、真っ直ぐにこのガレを目指してきているということは、狙いは明白だ。


「俺たちの『食料生産能力』と『土木技術コンクリート』がバレたか」


俺は舌打ちした。 王女がお忍びで来たことで、ガレの噂は大陸中に広まってしまったらしい。 飢えた国々にとって、ここは垂涎のまとだ。


「どうしますか? 迎撃しますか? コボルト工兵隊の投石なら、ある程度は……」


セリアが悲壮な覚悟で剣に手をかける。


「よせ。相手はプロの軍隊だ。コボルトたちを殺したくないし、せっかく作った水田を戦場にするのも御免だ」


俺は立ち上がり、腰のポーチ(おにぎり入り)を確認した。


「俺が出る。話をつけてくる」


   ◇


ガレの領境、乾いた荒野。 地平線を埋め尽くすように展開した軍勢の前に、俺はたった一人で立っていた。


先頭には、巨大な地竜アースドラゴンに跨った一人の男がいる。 身長は二メートルを超えているだろうか。全身を漆黒のフルプレートアーマーで固めているが、そこからはみ出す筋肉の盛り上がりが、鎧が悲鳴を上げているように見える。


「我が名はガリア帝国第三軍団長、『鉄血』のギガン! この地の長は貴様か、ひ弱そうな小僧!」


ギガンの大音声だいおんじょうが、ビリビリと大気を震わせる。 兜の奥から覗く眼光は、猛獣そのものだ。


「いかにも。ガレ村長の、アレクだ」


俺が名乗ると、ギガンは鼻で笑った。


「村長だと? ふん、情報ではここには『失われた古代技術』を持つ魔導師がいると聞いていたが……出てくるのは農民一人か。拍子抜けだ」


彼は巨大な戦斧バトルアックスを俺の鼻先に突きつけた。


「単刀直入に言う。この領地は本日をもってガリア帝国が接収する。我らの目的は、貴様らが隠し持つ『大量の食料』と『城壁を作る技術コンクリート』だ。大人しく降伏すれば、農奴としての命は保証してやる」


典型的な侵略者のセリフだ。 背後の兵士たちも殺気立っている。彼らの装備は傷だらけだが、目は飢えていた。食料事情が悪いのは、この大国も同じらしい。


「断る、と言ったら?」


「愚問だな。踏み潰すまでだ。我が精鋭『鉄竜騎兵団』の前では、貴様の作った石壁など紙切れに等しいわ!」


ギガンが腕を振り上げる。 五千の兵が一斉にときの声を上げる。 一触即発。


だが、俺は動じずに、ニッコリと笑った。


「まあ待て、将軍。戦うのはいつでもできる。だが、その前に一つ聞きたい」


「なんだ? 命乞いか?」


「いや。……アンタたち、腹は減ってないか?」


俺の問いに、ギガンが怪訝な顔をする。 俺は風向きを計算して、背中に隠していた「あるもの」を取り出した。


鍋だ。 カセットコンロ(魔石式コンロ)に乗せられた、熱々の土鍋。 蓋を開けた瞬間、戦場に異質な香りが広がった。


焦がしたような香ばしさ。豆の甘み。そして、強烈な食欲をそそる塩気。 味噌と出汁の香りだ。


グゥゥゥゥ……。


ギガンの腹から、雷鳴のような音が響いた。 彼だけでなく、最前列の兵士たちの腹も一斉に鳴った。


「な、なんだこの匂いは……!? 嗅いだことがないが、猛烈に……腹が減る匂いだ!」


ギガンが動揺して手綱を引く。地竜までもが鼻をヒクつかせている。


「戦をするにも腹ごしらえが必要だろう? 俺からの歓迎の印だ。……どうだ? 俺の領地を潰す前に、一杯やっていかないか?」


俺は鍋の蓋を盾のように掲げた。 暴力には暴力で対抗しない。 農家には農家の戦い方がある。これは「飯テロ」という名の防衛戦だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ