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17.泥と誇りの防衛戦

「ば、馬鹿な……魔法が効かないだと!?」


魔法使いが動揺して後ずさる。 彼らにとって、魔法は絶対の力だ。それが「ただの人工物」に防がれた事実は、彼らの常識を根底から揺るがした。


「狼狽えるな! 相手は小娘一人と、無能な元貴族だけだ! 囲んで叩き潰せ!」


ガストンの怒号に押され、傭兵たちが雄叫びを上げて突っ込んでくる。 彼らは俺たちの屋敷と畑を蹂躙しようと、横一列に広がった。


だが、彼らは気づいていない。 ここがすでに、俺の「テリトリー」であることを。


「ボルグ長老、やってくれ!」


俺が指笛を鳴らした瞬間。


ズボォッ!!


「うわぁぁぁッ!?」 「な、なんだ!?」


先頭を走っていた傭兵たちの足元の地面が突然抜け、彼らは姿を消した。 落とし穴だ。 コボルトたちが一晩で掘り上げ、綺麗に偽装しておいたトラップである。


「穴だ! 足元に気をつけろ!」


後続の兵士たちが慌てて足を止める。 その隙を見逃す彼らではない。


「ワン! 投石用意ッ!」 「ファイヤー!!」


畑の茂みや、水路の陰から、筋肉隆々のコボルトたちが飛び出した。 彼らの手には、この辺りに無限にある「硬い石」が握られている。


ヒュンッ、ヒュンッ!


「ぐあっ!」 「痛ってぇ!」


コボルトの剛腕から放たれる石つぶては、もはや砲弾だ。 安物の革鎧など容易く貫通し、傭兵たちの骨を砕いていく。 剣が届く間合いに入る前に、彼らは次々と戦闘不能になっていく。


「亜人ごときに後れを取るな! 魔法使い、焼き払え!」


ガストンが喚き散らす。 二人の魔法使いが、今度はコボルトたちに向けて杖を構える。


「させません!」


一閃。 銀色の疾風が戦場を駆けた。 セリアだ。彼女は落とし穴と石つぶての雨を縫うように駆け抜け、瞬く間に魔法使いの懐に潜り込んでいた。


「詠唱が遅い!」


ガギィッ! 峰打ちの一撃が、魔法使いの手首を打ち砕き、杖を弾き飛ばす。 もう一人は慌てて結界を張ろうとしたが、セリアの蹴りがその鳩尾みぞおちに深々と突き刺さっていた。


「がハッ……」


二人の魔法使いが泡を吹いて倒れる。 これで敵の主力は壊滅だ。


残るは、馬車の影で震えているガストンだけとなった。


「ひ、ひぃぃッ! 来るな! わ、私はグラナード家の徴税官だぞ! 私に指一本でも触れれば、バルドル様が黙っていないぞ!」


ガストンは腰を抜かしながら、必死に家名を盾にする。 俺はゆっくりと彼に歩み寄った。 手には、とっておきの「最終兵器」が入ったバケツが握られている。


「なあガストン。お前は俺たちの作ったものを『汚らわしい』と言ったな?」


「あ、当たり前だ! 土いじりなど、下賎な者の仕事だ! 貴族である私が……」


「そうか。なら、その『下賎なもの』の威力を、たっぷりと味わって帰れ」


俺はバケツの中身を、ガストンの頭上から思い切りぶちまけた。


ドバァァァッ!


「ぶベラァッ!?」


ガストンが奇声を上げる。 彼が被ったのは、まだ発酵途中の、強烈なアンモニア臭を放つ「未完熟堆肥(液肥)」だった。 スライムの粘液も混ざっているため、一度ついたら簡単には落ちないし、強烈に臭い。


「ぐ、ぐわぁぁぁ! く、臭い! 目が、目がぁぁ!」


「それは俺たちが集めた『命の源』だ。ありがたく持って帰れ。……ああ、それと」


俺は鼻をつまんでのたうち回るガストンを見下ろし、冷ややかに告げた。


「父上に伝えろ。『二度と俺の土地に手出しするな。次は糞尿じゃなく、コンクリート詰めにして東京湾(この世界の海)に沈めるぞ』とな」


「お、覚えてろぉぉぉッ!」


ガストンは這うようにして馬車に乗り込み、気絶した部下たちを置き去りにして逃げ出した。 その姿は、まさに負け犬。いや、肥溜めに落ちたネズミだった。


「……ふぅ。片付いたな」


俺は空になったバケツを置き、息を吐いた。 周囲では、コボルトたちが勝利の雄叫びを上げている。


「ワンワン! 人間の兵隊なんて弱っちいワン!」 「俺たちの石礫いしつぶて最強!」


セリアが気絶した傭兵たちを縄で縛り上げながら、苦笑して近づいてきた。


「アレク様、最後のアレ……やりすぎではありませんか? あの匂い、三日は取れませんよ」


「いい厄除けだろ。あの匂いを嗅げば、二度とここに来ようとは思わなくなる」


俺は水道橋を見上げた。 傷一つないコンクリートの巨塔が、夕日を浴びて輝いている。 物理と知恵で、理不尽な暴力を跳ね返した証だ。


「さあ、作業に戻ろうぜ。水は通った。次は田んぼ作りだ」


俺たちは勝利に酔うことなく、すぐに次の一歩を踏み出した。 だが、この事件は決定的な引き金となった。 「辺境に、魔法使いすら撃退する強力な領地がある」という噂は、実家だけでなく、ついに国の最高権力者――王家の耳にも届くことになるのだ。

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