16.強欲なハイエナの訪問
「ヒヒッ……。こいつは驚いた。あの岩だらけのガレが、これほどの農地に変わっているとは」
馬車から降りてきた男、ガストンは、ねっとりとした視線で俺たちの畑を舐め回した。 小柄で猫背。高価だが趣味の悪い金糸の服を着込み、指にはいくつもの宝石の指輪が光っている。 その後ろには、実家が雇った私兵団――荒くれ者の傭兵たちと、二人の魔法使いが控えていた。
「お久しぶりですね、アレク坊ちゃん。いや、今は『ガレ村の村長さん』でしたか?」
ガストンが嘲るように頭を下げる。 「領主」ではなく「村長」と呼ぶことで、俺の地位を貶めようという魂胆が見え透いている。
「何の用だ、ガストン。実家は火の車だと聞いたが、こんな辺境に油を売りに来る余裕があるのか?」
俺が腕を組んで尋ねると、ガストンは大袈裟に肩をすくめた。
「人聞きが悪い。我々は『救済』に来たんですよ。バルドル様は心配しておられました。あなたが家の財産である『魔道具』を勝手に持ち出し、こんな僻地で隠遁しているのではないかと」
「魔道具?」
「とぼけないでください。魔力のない貴方が、これほどの野菜を作り、あのような巨大な石の橋(水道橋)を作るなど、古代のアーティファクトでも使わなければ不可能です」
ガストンの目が、背後の水道橋と、積み上げられたカブの山を行ったり来たりしている。 彼の目には、それらが全て金貨の山に見えているのだろう。
「単刀直入に言いましょう。バルドル様のご命令です。 一つ、あなたが隠し持っている『豊穣の魔道具』を返還すること。 二つ、これまで不当に稼いだ利益の9割を『滞納税』として納めること。 三つ、このガレの統治権を実家に返上すること。 ……以上です」
ふざけた要求だ。 追放しておいて、成功した途端にすべてよこせと言う。盗人猛々しいとはこのことだ。
「断る」
俺は即答した。
「ここにあるのは俺と領民の汗と知恵の結晶だ。実家のものは何一つない。魔道具なんて存在しないし、税を払う義理もない」
「ヒヒ……そう言うと思いましたよ」
ガストンがニヤリと笑い、パチンと指を鳴らした。 背後の傭兵たちがジャキッ、と武器を構える。魔法使いたちが杖を掲げ、先端に赤い光(ファイアボールの予備動作)を灯す。
「交渉決裂ですね。ならば、実力行使で回収させていただきます。……おい、やれ! 抵抗するなら殺しても構わん! どうせ死んだと思われていた身だ!」
「アレク様、下がってください!」
セリアが剣を抜き、俺の前に立つ。 だが、敵は二十人以上。しかも魔法使いがいる。まともにぶつかれば被害は避けられない。
ガストンが勝ち誇ったように叫ぶ。 「魔法使い! 手始めにあの目障りな『石の橋』を壊してやれ! あれを壊せば、この生意気なガキも泣いて謝るだろう!」
魔法使いが杖を振るう。 放たれた火球が、完成したばかりの水道橋に向かって飛んでいく。
「させないッ!」
セリアが飛び出そうとするが、俺はその肩を掴んで止めた。
「いいから見てろ、セリア」
「でも、あんな魔法が直撃したら……!」
ドォォォォォン!!
爆音が轟き、水道橋の脚部に火球が直撃した。 黒煙が舞い上がる。 ガストンたちが「やったか!」と歓声を上げる。
だが、煙が晴れた時。 彼らの笑みは凍りついた。
「……は?」
そこには、煤で少し黒くなっただけで、傷一つついていないコンクリートの柱がそそり立っていた。
「残念だったな。俺の作った『リキッド・ストーン(コンクリート)』は、ただの石じゃない。不燃性で、耐火性も抜群だ。おまけに中には鉄筋が入ってる。そんな花火じゃ、表面を焦がすのが関の山だ」
俺は呆然とするガストンを見下ろし、冷酷に告げた。
「俺の橋に傷をつけたな? ……高くつくぞ、その修理費」




