はじめまして、こんにちは。
まだ中学生のCは母に連れられ、まだ赤ちゃんの弟Kとともに首都圏を離れる。
母子3人を新幹線駅のホームまで見送りに来たのは、
身を寄せていた母の親戚女性と、そのラガーマンな息子家族だけ。
「チカちゃん。元気でね! あっちに着いたら連絡ちょうだいよ。
いつでも帰っといで。今度は私も! 役所窓口までついてってあげるから~!」
親戚女性は、嗚咽を漏らしながらCの母に手を振る。
しかし母は、手を振り返す気力もないのだ。
代わりにCが手を振って愛想を振りまく。
「オバチャン、ありがと~! 着いたらまた電話するね!」
新幹線で向かった先は、遠い遠い場所にある地方都市。
まずは主要駅で待ち合わせ。
「んまあ、チカさん。よかった、無事に来れたんだ! お久しぶりです。民生委員のTです」
母が頼った相手――家庭心理アドバイザーのT女史
改めT師は、講演時のギラギラスーツではなく、銘仙着物を纏って駅に現れた。
髪は結わずにふつーのオバハンパーマ。
ふと、彼女から金木犀の香りが漂った。
Cは昔から、このニオイが大キライだ。
T師を半分敵認定は、ここから始まったと言っても過言ではない。
すると、Kくんが急にむずかり出した。
うぎゃうぎゃ泣き出して、移動で疲れ切ったCの母には、手が付けられない。
「ありゃまー、どうしたの? おなかすいちゃった? まだねむいの? それともおしめ?」
T師は、Kくんをベビーカー越しによちよちあやしながら、泣き声リクエストを見定めようとした。
母はずっと肩を落としている。明らかに疲れ切っていて、声を出す気力もない。
「大丈夫、私に任せて。おチビちゃん、泣き止むようにしてあげるから」
T師はKくんを抱き上げ、まだ赤ちゃんの体を優しく支えながら、ベビールームへと足を伸ばした。
T師に促され、Cの母もゆっくりとベビーカーを押しながら同行する。
金木犀の香りがふんわり漂い、Cは思わず眉をしかめた。
ベビールームにたどり着くと、T師はお湯で粉ミルクを作った。
Kくんは哺乳瓶を吸い終えると、満足そうに小さな吐息を漏らし、まぶたを半分閉じたままT師に抱かれる。
「よく飲んだね、えらいえらい」
T師は優しく背中をトントンしながら、Kくんの小さな体を支える。
母はまだ椅子に沈んだまま、うつろな目で二人を見つめている。身体は重く動かない。
「……チカさん、抱っこしてみる?」
「…………ムリです」
母は小さな声でつぶやき、首を否定形で振った。
その頃Cは、ベビールームから少し離れたベンチに腰掛け、ぼんやりと座っていた。
周囲の親子連れや通行人は気にならない。携帯はまだ持たせて貰ってないから、暇つぶしもできない。ただ弟や母を待ちながら座っていた。
しばらくして、Kくんはきょとん顔でベビーカーに乗せられ、T師がそれを押しながら現れた。
Cの母は疲れたまなざしで、後ろをトボトボとついて来る。
「よし、これで少し落ち着いたね。無理せずに、ゆっくり進もう」
Cはうなずき、母の後ろに続いた。そのまま駐車場へと向かい、T師の車に同乗する。




