表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/128

はじめまして、こんにちは。

 まだ中学生のCは母に連れられ、まだ赤ちゃんの弟Kとともに首都圏を離れる。

 母子3人を新幹線駅のホームまで見送りに来たのは、

 身を寄せていた母の親戚女性と、そのラガーマンな息子家族だけ。


「チカちゃん。元気でね! あっちに着いたら連絡ちょうだいよ。

 いつでも帰っといで。今度は私も! 役所窓口までついてってあげるから~!」


 親戚女性は、嗚咽を漏らしながらCの母に手を振る。

 しかし母は、手を振り返す気力もないのだ。

 代わりにCが手を振って愛想を振りまく。


「オバチャン、ありがと~! 着いたらまた電話するね!」



 新幹線で向かった先は、遠い遠い場所にある地方都市。

 まずは主要駅で待ち合わせ。


「んまあ、チカさん。よかった、無事に来れたんだ! お久しぶりです。民生委員のTです」


 母が頼った相手――家庭心理アドバイザーのT女史

 改めT師は、講演時のギラギラスーツではなく、銘仙着物を纏って駅に現れた。

 髪は結わずにふつーのオバハンパーマ。


 ふと、彼女から金木犀の香りが漂った。

 Cは昔から、このニオイが大キライだ。

 T師を半分敵認定は、ここから始まったと言っても過言ではない。


 すると、Kくんが急にむずかり出した。

 うぎゃうぎゃ泣き出して、移動で疲れ切ったCの母には、手が付けられない。


「ありゃまー、どうしたの? おなかすいちゃった? まだねむいの? それともおしめ?」


 T師は、Kくんをベビーカー越しによちよちあやしながら、泣き声リクエストを見定めようとした。

 母はずっと肩を落としている。明らかに疲れ切っていて、声を出す気力もない。


「大丈夫、私に任せて。おチビちゃん、泣き止むようにしてあげるから」


 T師はKくんを抱き上げ、まだ赤ちゃんの体を優しく支えながら、ベビールームへと足を伸ばした。

 T師に促され、Cの母もゆっくりとベビーカーを押しながら同行する。

 金木犀の香りがふんわり漂い、Cは思わず眉をしかめた。


 ベビールームにたどり着くと、T師はお湯で粉ミルクを作った。

 Kくんは哺乳瓶を吸い終えると、満足そうに小さな吐息を漏らし、まぶたを半分閉じたままT師に抱かれる。


「よく飲んだね、えらいえらい」


 T師は優しく背中をトントンしながら、Kくんの小さな体を支える。

 母はまだ椅子に沈んだまま、うつろな目で二人を見つめている。身体は重く動かない。


「……チカさん、抱っこしてみる?」


「…………ムリです」


母は小さな声でつぶやき、首を否定形で振った。

その頃Cは、ベビールームから少し離れたベンチに腰掛け、ぼんやりと座っていた。


周囲の親子連れや通行人は気にならない。携帯はまだ持たせて貰ってないから、暇つぶしもできない。ただ弟や母を待ちながら座っていた。


しばらくして、Kくんはきょとん顔でベビーカーに乗せられ、T師がそれを押しながら現れた。

Cの母は疲れたまなざしで、後ろをトボトボとついて来る。


「よし、これで少し落ち着いたね。無理せずに、ゆっくり進もう」


Cはうなずき、母の後ろに続いた。そのまま駐車場へと向かい、T師の車に同乗する。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ