休日山奥隔離ツアー
朝の集合場所:S不動産本社前。
そこにに現れた四郎は、まるで出陣前の大将のように腕を組んでいた。
Fは顔をひきつらせながら、Fの息子の手を引き、レンタカーの後部座席に小型スーツケースを積み込む。
「ママー! ぼく道の駅でソフトクリーム食べたい」
「俺はジェラートにしよう。Cは何味がいい?」
「……ピスタチオで」
「お兄様、キンモクセイ風味はないんでしょうか?」
「社長、本当に行くんですか。別荘なんて……」
「当然だ。妹夫妻の新居にふさわしい“別荘ライフ”を提案するのも兄の務めだ」
(誰がそんな務め頼んだんだ……? 息子の休日レジャー参加OKはありがたいけど)
Fの胃痛は、出発前からマックスだった。
車内。
運転中のお抱え運転手以外は、道の駅でジェラートとソフトクリームを無事入手。
助手席の四乃はキンモクセイ風味のソフトクリームに上機嫌。
Cは中部座席の端で、ピスタチオジェラートを片手に、窓の外を見つめている。
四郎があーん(づ ̄³ ̄)づを狙うが、Fの息子のおねだり力には完敗だ。
Fは後部座席をちゃっかりGET。
隣に座る、交代要員のお抱え運転手は女性だったため、仕事の愚痴に花が咲く。
しょんぼり四郎は代わりにナビ操作権を握り、なぜか車内BGMを“00年代恋愛ソング”に設定していた。
「なあC、あの牧場が見えるか? 昔、俺と四乃がえさやり体験した場所だ」
「へー」
「思い出すなあ、四乃。あのとき、お前は足をひねって――俺が車までおぶって帰った」
「そうでしたねぇ(T_T)\(^-^)」
どんな会話? とFは内心首をひねるが、顔には出さない。
Fの息子は、スヤァ……zzZと夢の中へ。
「C、今度はオマエの番だ」
「……は?」
「夫婦の信頼は、まず体力からだ」
「いや、俺は別に……」
「四乃、おぶられる覚悟はあるか?」
「ウフフ、もちろんありますよ❥❥」
Cの顔がひきつる。Fの背中を汗が流れる。
(倫理ブレーキ違反どころじゃない。S家の兄妹タッグで精神攻撃が始まってる……!)
昼過ぎ。
一行が到着したのは、山深くの湖畔に建つ三階建てのログハウス。
鳥の声と、冷たい風。そして、異常に立派な門構え。
「……すげぇ、なんか刑務所みたい」
Cがぽつりとつぶやく。
「失礼な。ここは“自然と対話する家”だ」
四郎が誇らしげに言い放つ。
内部は、木の香りと静謐な空気に包まれていた。
しかし、あちこちに“妙なもの”が置かれている。
リビングの壁には落書きのような絵画(四郎力作)。
鴨居の上には「安全第一」の額縁(四郎の書)。
そして冷蔵庫の上には「監視カメラ(稼働中)」のプレート。
「これ……全部、社長の趣味ですか?」
Fが恐る恐る尋ねる。
「当然だが?」
「当然じゃないです」
湖を望むテラスでコーヒーブレイク。
Cが湯気立つドリップコーヒーとカフェオレを注ぐ。四郎がカフェオレを受け取る。
CはFの息子分のカフェオレを新たに用意する。
「C。君は妹の過去をどれだけ知っている?」
「え……あまり詳しくは……」
「ならば、俺が語ろう」
Cが止める間もなく、四郎の“家族史講義”が始まった。
幼少期の四乃。兄妹で過ごした日々。
彼の口ぶりは優しく――だが、その語り口には“絶対的所有”の影があった。
「俺はな、F。妹と家族を守るためなら、倫理など惜しくはない」
Fは凍りついた。
その一言が、冗談でもなく真実でもあるのを、肌で感じた。
(やっぱりこの人、ソシオパスだ……いや、違う。たぶん“孤独”が形を変えて暴走してるだけだ)
湖畔では、四乃とFの息子が釣りを楽しんでいた。
夜。
四郎はスヤァZzz。Fの息子もスヤァzzZ。
四乃が別棟の風呂へ行った隙に、FとCはこっそりバルコニーで話した。
「……C君。ほんとに大丈夫? ムリしてない?」
「いや、まさにそう。大丈夫って言える状況じゃない」
「やっぱりか~!」
湖面には満月が漂っていた。
翌々朝。
帰りの車内、四郎が満足げに言った。
「やはり別荘ライフはいいものだ。C、いつ引越す?」
「四郎様、物件の契約はまだですよ」
「そうだったか。F、来週中には終わるよな? 終わらせるんだろ?」
Fの胃が悲鳴をあげた。
(いや待て、それ引越しどころか物理所有宣言だろ!!)
助手席の四乃は嬉しそうに笑っていた。
Cは苦笑いで窓の外を見ている。
Fの息子は別荘の休日を満喫。
Fは静かに心の中で叫んだ。
(誰かこの兄妹に倫理ブレーキを……!!)




