キンモクセイ内見ツアー
「というのが、我が妹夫妻の馴れ初めだな」
あまりに堂々とした四郎の言い草に、Fは自分の常識を疑いかけた。
――倫理ブレーキ違反で、圧力結婚を“推し活”と称するこの男。
(倫理ブレーキ違反だコイツ⚠️ どうにか暴走を止めないと…(*﹏*;))
Fの胃はキリキリと鳴っていた。
「社長。それ、推し活じゃないのがキツイです。
そんな圧力のかけ方、実質お見合いどころかパワハラですよ……」
「フッ……なんとでも言いたまえU´꓃`U」
勝ち誇ったようにカップのコーヒーを啜る四郎。
その姿は、もはや
“恋のキューピッド
(.❛ᴗ❛.)❥⇒❥⇒(・ω・)つ❤⊂(・ω・)”を自称する悪魔ᕦ(ಠ_ಠ)ᕤにしか見えなかった。
すると、
ピコン♪
ピコン♪
Fの社用スマホと私用スマホが、ほぼ同時に鳴った。
「なんで同時!?」とFは思わず声を上げる。
まず四乃からのメッセージ。
社用スマホ《私、やっぱりキンモクセイ公園近くのマンションがいいです。
前向きに検討させてください❥❥
Cさんも私が説得しますから》
続いてCからのメッセージ。
私用スマホ《家賃安いし、キンモクセイは秋だけガマンする》
「説得済みじゃん……」
Fはスマホを握りしめ、天を仰いだ。
――四乃が主導しているように見えて、どこか四郎の影がちらつく。
“推し活”という名の呪縛は、まだ解けていない。
Fは仕方なく予定を組み、S不動産管理会社にも連絡。
四乃主導でCの同行が決まり、ようやく段取りが整ったと思ったそのとき――
「ん? 俺も行くが?」
四郎の低い声が、Fの背後から降ってきた。
「なんで社長が直々に内見!?」
「妹の新居だ。兄として当然だろう」
(当然じゃねえ!!)
Fの心のツッコミは、虚空に吸い込まれた。
こうして、“倫理ブレーキ vs 推し活権力”の内見ツアーが、静かに幕を開けた。
◆内見当日
場所:キンモクセイ公園近く・築浅マンション。
Fは玄関前で深呼吸し、同行メンバーを確認した。
四乃は笑顔、Cは無表情、そして四郎は当然のように、腕を組んで立っている。
「ここならICもほど近い。Cの通勤も楽だな。
山奥の別荘からは遠いが、週末は俺が送迎してやる」
四郎はこともなげに告げた。
四乃が少し驚いて声を上げた。
「別荘!? お兄様、あちらは車で3時間の山奥ですよ? お抱え運転手の負担も、お考えになって」
Fは四郎に言い募った。
「送迎とか無理でしょ!?」
「……特別手当で総動員する。若い者なら体力もある」
「社長、それ労基法どころか三六協定もアウトですからね!?
“若いから大丈夫”は昭和理論です!
今の時代を生きる者として、社労士として、聞き捨てなりません」
Fは半ば悲鳴に近い声を上げた。
だが四郎は、まるで講義を聞き流す学生のように軽く頷く。
「フッ……若い芽は、鍛えてこそ伸びるものだ」
(鍛錬とブラックを混同するな!!)
Fの胃痛はさらに悪化していた。
Cは、室内の喧騒をよそに、部屋の窓から近くのキンモクセイ公園を眺めていた。
「……家賃安いし、秋のキンモクセイは……まあ、ガマン」
Cはため息を吐いた。四乃がにこやかに近づく。
「私、毎日キンモクセイ・ハンドクリーム、塗ってあげますから」
四乃は嬉しそうに言う。
「……Kくん、(小声)助けて」
Cの顔はやや引きつっていた。
Fの胃痛はピークに達した。
(倫理ブレーキ違反だコイツら……⚠️ どうにかこの兄妹の暴走を止めないと……C君と私のストレスがハンパない)
Fがそう思った矢先。
「次は山奥の別荘も見学しよう! 週末貸切だ!」
四郎が宣言した。
「3時間かかる別荘を!? 趣旨が違います」
Fの悲鳴が虚しく響く。




