社長室単独ライブ✧\(>o<)ノ✧:「さわらせないキミは少女なの?」
四郎の脳裏に浮かぶのは、義弟・Cの、あの泣きそうな顔(比喩)。
先ほどまで四乃からの“追いキンモクセイ・ハンドクリーム”を拒み続けていたCは、
中古車査定の電話を口実に、逃げるように社長室を後にした。
その背中を見送りながら、四郎の胸に奇妙なフレーズがこだまする。
「……さわらせないキミは少女なの?」
――その瞬間、閃光のようにインスピレーションが走った。
数時間後。S不動産・社長室のドアが勢いよく開く。
ノック? していない。
社内ルールでは「内線で許可を取る」が鉄則。
だが新人秘書・Fは、初日のOJTで言われた言葉を忠実に守っていた。
「社内botに頼るな。人間の判断で動け」
今、Fは判断した。
――報告遅延はまずい! ノックなど不要!
その瞬間、ドアの向こうから――
〽「さわらせないキミは少女なの~?
あるいは推しのガードが硬すぎる~!」
魂の歌声が、社長室いっぱいに響いた。
四郎の指先が、空気を指揮するように動く。
リズムに合わせて、机上の書類が震えた。
革張りの椅子、会議資料、卓上メモ――すべてがステージ装置に見える。
完全にトランス状態。
Fはドアを開けた姿勢のまま、凍った。
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♪【1番】
さわらせない キミは少女なの?
心のドアに鍵かけて投げ捨てた
「開かないよ」って指を絡めて
すぐに離して 微笑み真顔
こたつやソファの隣で
募る想いは上の空
振り向かぬまま星を眺める
推しても推しても キミは「知らない」
届かぬ想い 喉にしまい込む――
(……これ、現実……?⊙.☉)
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だが四郎は気づかず、情熱の2番へ突入。
♪【2番】
スマホ画面に 遊ぶような通知
「やっぱなし」そう言って
キミはそのまま部屋で寝るだけ
遠い街灯 ビルの谷間
祈る声さえ風に消えて
認知されないその深淵に
届かぬ想いに身を焦がす――
(四郎様、謎ラップ入りました……ᕙ(@°▽°@)ᕗ)
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♪【3番】
さわらせない キミは少女なの?
その心 永遠に閉ざしたまま
それでもこの胸に響く
つたないメロディ
俺自身のために歌い続ける
さわらせない……
キミは 少女なの……?
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――静寂。エアコンの風すら止まる。
残ったのは、四郎の荒い呼吸だけ。
四郎は、ゆっくりと振り向いた。
「……F」
「はいっ!」
沈黙。四郎は慌てて咳払いをした。
「こ、これは……新曲練習だ! 誰のことでもない!!」
Fは無言のまま一歩前へ進み、タブレットを抱え直す。
「歌詞の『キミは少女?』――つまり少女ではない。対極、成人男性ですね」
「なっ(ʘ言ʘ╬)!?」
「『心のドアに鍵』=ガードの固い男性。
『ソファの隣』=四郎様が死守したC君の隣席。
『星を眺める』=男性の星――彦星。織姫の夫。
天帝によって別居中。つまり、社長の“推し狂い”を暗喩。」
四郎、顔面蒼白。
「なぜだ……! なぜそこまで分かる!?」
Fは無表情でタブレットを傾けた。
そこには――ブレた後ろ姿のアイコン。
「これが私の推しです。十年来の相棒。
名前を出さなくても、想いは伝わる。
四郎様の“魂の歌”も同じ。
――想いと推し活、ぜんぶバレてます」
四郎は完全敗北。
「……トップシークレットだ」
「もちろんです。私は推し活勢の味方(`・ω・´)ゞ」
Fはそのまま、新たな三世帯同居案を淡々と報告。
四郎は、デスクに突っ伏した。
(……歌も推しも、全部バレた……)




