ミッドセンチュリーの夜
ここはRの実家、玄関前の屋外。
Rの足元には、大量の段ボール箱が積まれている。
Rはとうとう実家から追い出された――わけではなく、単なる引越し風景だ。
そこへ1台のワンボックス車が、実家前の車道から颯爽と現れる。
「おーいR! うちのパパから借りてきたよ~」
運転席の窓ガラスが下がり、Fが声を掛ける。
「F、ありがとう。今度、何かごちそうするね。息子君も一緒に」
Rはさっそく、F母子の乗る車のスライドドアを開けた。
Rの入力したナビ情報を元にたどり着いた先は、
シェアハウス「ミッドセンチュリー」。
M部長も長年暮らすという、このシェアハウスだ。
事故物件ではないのだが、夜な夜な怪奇現象が起こるという噂が絶えない。
つまりはいわくつき物件のため、家賃は破格。
しかしFは、Rが荷物を運ぶ姿を見て少し首をかしげる。
「……ねえ、R。夜中平気なの?」
「う~ん、たぶん平気……」
Rは自信なさげに答えた。
ガチ登山家のM部長ならともかく、Rはʕ·◇·ʔケロケロ?にすらビビり散らかすほど臆病なのに、夜中平気なのだろうか?
Rの個室ドアは、引越し作業のため全開状態。
Mは既に荷物を整理中で、FとRの到着を笑顔で出迎えた。
ところがFの息子は、早くも探検モードに突入していた。
彼はまだ小学校低学年ながら、F由来の探検部DNAが騒ぐ。
庭を走り回り、ピンポンダッシュはしないが、ガチャガチャと目についたドアノブをまわし始める。
Fの息子はふと、気になる扉を発見した。
この部屋だけ、なぜかノブの色が、ほかと違ってピカピカだ。
これは、まちがいない。
おたからの気配がする✨(ㆁωㆁ)!
彼は迷わずノブをまわす。
鍵の手応えはなく、扉はキィー……と開いた。
靴を脱ぐ場所は見当たらない。たぶん土足の部屋だ。
Fの息子は、そのまま足を踏み入れる。
よく分からない香りが、部屋に漂っていた。
すぅ~U´꓃`Uクンカクンカと鼻で吸い込む。
たしか通学路に生えていた、キンモクセイとおんなじ匂い。
室内は薄暗い。LED……LED……☀スイッチどこ?
あった! たぶんコレだ!
室内はパッと灯りに照らされた。
一瞬の眩しさに目がくらむ✧\(>o<)ノ✧。
幻惑から回復すると、Fの息子は目を見開いた。
部屋の奥には、小学校の体育館にあるような、小ステージがあった。
片隅には、Fの息子が入学式で座ったのと同じような、パイプ椅子が畳んだ状態で整然と置かれていた。
その近くの床には、古びたテープレコーダー式ラジカセが、無造作に置かれていた。
Fの息子は、すぐにそのスイッチを気に入り、パチパチ鳴らした。
電源が入り、ラジカセから女の声で、奇妙な歌が流れ始めた。
歌詞は判然とせず、途中プツプツと異音も入り、途切れ途切れになる。
〽
皺だらけの手(゜o゜;…
ひとりカレー⊙.☉…
スプーンの(>0<;)…
黒の鼻(((;ꏿ_ꏿ;)))…
Fの息子は、謎の歌詞にゾゾーッ.·´¯`(>▂<)´¯`·.と背筋を震わせ、一目散に部屋を飛び出した。
そのまま階段を駆け上がり、Rと立ち話していたFにしがみつく。
「ママ~もう帰ろうよ!」
「わっ! ビックリした~、さっきまでどこ行ってたの? 危ないことしてないよね?」
Fは心配そうに問いかける。
Fの息子は、それを肯定しようとして――ふと気がつく。
(ヤバい(´;︵;`)! ママに、ドアノブガチャガチャしてたらへんな部屋見た~(ᗒᗩᗕ)なんて言ったら、絶対怒られるヤツだ!)
「べつに……庭で遊んでただけ。それより、早く帰ってゲームしたい!」
Fの息子は、叱られ回避と話したい欲求を天秤にかけ、前者を選んだ。
「その前に宿題でしょ~!」
Fはあきれた息子を引っ張って、さっさと家路へついた。
その頃Mは、開けっ放しになっていた部屋のドアを閉める。
金木犀の残り香だけが、シェアハウスの廊下へかすかに漂う。




