RとMのドライブ・イン・カー
Cがタクシーで去ったあと、3次会は開かなかった。
唯一シラフのRの運転で、酔っぱらいFを無事実家まで送り届けると、
次はM部長の住むシェアハウスへと向かう車内。
「わるいねR! わざわざ私まで送ってもらって」
「いえいえ、むしろ私こそ。M部長には急に幹事頼んじゃったのに、引き受けてくれて助かりました」
M部長は鷹揚にほほえんだ。
「私も、Rが地元Uターンして来てくれて、ほんと助かる。DXコンテストの件はごめんね~、審査員のおじいちゃま方、あったまカッチコチ♪~(´ε`)だからさ。
――私の一票如きじゃ、覆せなかった」
Mは助手席で、シートベルト布部分をいじりながら、ふと息を吐いた。
「――あの時はね。ほんと、惜しかったんだ」
彼女の声には、諦念がにじんでいた。
以前、地元観光協会が主催し、Rも参加した、“DX観光モデル”コンテスト。
審査員には錚々たるメンツ――地元銀行頭取に商工会の会頭、地方議員、市の観光課長。
どの顔も、昔ながらの“地域社会代表”を、そのまま形にしたような人たちだった。
会場は老舗旅館・仙洞館の「春の間」。
畳の上に仮設の会議机を並べただけの審査室で、
紙のめくれる音と、ぬるい笑い声が漂っていた。
Rの企画は、のちのretroji――拡張型仮想現実地図アプリを活用した、デジタル観光企画の提案だった。
派手さはない。ただこの土地を知り、人の暮らしを知っている者にしか書けない内容――
しかし、その努力は、正当には評価されず、女の子なのに頑張っててスゴイなあ~という、冗談交じりの笑い声にかき消された。
審査員たちは圧倒的多数で、ニュースバリューのある“1円起業”の高校生社長を選出。
彼はその肩書をを引っさげて、都内有名私立大学の切符を掴み取った。
とくになんの成果も残さずに。
「私ね、身内びいき抜きに、Rの名前を書いたの。ホントに良いアプリだと思ったから」
Mは乾いた笑みを浮かべた。
あの場には、S家の名代として四乃も来ていた。
きれいな着物姿で、静かに全員を見渡して。
彼女一瞬、「この方、よいと思います」って言ったの。間違いなくRのことだよ。
そのとき、空気が凍ったのを覚えてる。
でもね、すぐ隣の男が慌てて止めに入ったの。
「それは――四郎様のお考えと異なります」って。
四乃はほんの少しだけ目を伏せて、「では」とだけ言って、あとは黙った。
あの沈黙が、全てを物語ってた。
――結局、受賞したのは高校生社長。
ニュースでは“地域創生の新しい風”なんて見出しがついて、
来賓席で、四乃はお上品に拍手してた。
まるで最初から、決まってたみたいにね。
Mは、窓の外のネオン看板をぼんやり見つめながら、小さくつぶやいた。
「Rのアイデア、ほんとに良かったのに……
あれ通ってたら、何かがちょっと、変わってたと思うんだ」
Rは笑ってごまかそうとしたが、ハンドルを握る指先が少し強張っていた。
その沈黙を、Mは見逃さなかった。
「Cが居なかったら、どうなってたんだろうね?」




