Cの攻防
居酒屋の喧騒が、ビールの泡のように弾けていた。
テーブルには空き瓶が林立し、店員がつまみの皿を回収する。
Cはスマホを握りしめ、画面に映る「四乃」の名前を睨みつけた。
未読メッセージが何件も積み重なり、ついに着信音が鳴る。
「四乃さんからだ……とうとう来たか……」
Cはうんざりした表情を浮かべる。
それでも自分は賢く立ち回れるという、微かな自信が声に混ざる。
隣のRが唐揚げを頬張りながら笑う。
「何言ってんの? 新婚でしょ。さっさと帰りなよ~」
Cは心の中で思う――それがなんだ。俺は俺のペースで帰宅したい。
Mがビールを注ぎながら、穏やかに諭す。
「まあまあ、でも電話くらいは出た方がいいかもね」
Cは、Mの言葉を盾にしつつも、逃げ口上の一手にする。
「そうだ。少し会話してすぐ終了……そうすればまだ飲める」
Fが頷き、グラスを掲げる。「うんうん」
Cは内心で、共犯者を得た感覚に微かに安心する。
指先がスマホに触れる。
「いや、でも待てよ……?」
このまま放って置けば、四乃も諦めて寝るのでは?
猜疑、ねばり、期待、ハッタリ、全部が渦巻く。
Cは、スピーカーボタンを押す手をためらう。
Rが肩を叩く。
「なにが? もう独身じゃないんだし」
ああ、これじゃまた四乃チョイスの材料に……
Mも悪戯っぽく目を細める。
「代わりに出てあげよっか~? 笑」
Cは思う――助けを得つつ、自分が飲み会主導権を握るにはどうすれば……Mを幹事の座から引きずり降ろす?
Cがぼんやりしている間に、Fがスマホを奪い、画面の通話ボタンを押す。
「ほらほら~、C君聞いてみなよ」
ピッ。スピーカーから、四乃の声が流れる。柔らかく、でも確かに鋭さもある。
「もしもし?^_^」
Cは慌ててスマホを奪い返す。
「四乃さん……」
弱みを見せるな。今すぐ体制を立て直して―――
居酒屋の喧騒が、遠のく。
Rが小声で囁く。「ほらね!」
Mがニヤリ。「あれれ? 意外と尻に敷かれるタイプ」
Fがクスクス笑う。「www」
Cは表情を平静に保つ。
「ふー、……こんばんは?」
四乃の声は、柔らかくも確実に圧を含む。
「あ、ようやく出てくれた。今、どこにいるの? いつ頃帰ります? 私眠たくって(╯︵╰,)」
なるほどなるほど? Cの脳内は計算で埋め尽くされる。弾き出した答えは、無回答。
「先にお休みください」
「今まで待たせておいて? 具体的には?」
「だれも起きて待っていてくれとは頼んでいませんが?」
「ウフフ、そうでしたっけ? 帰りはどうされます?」
「徒歩ですがなにか?」
「分かりました。タクシーを呼びますね。お店の名前は? 夜も遅いですし、Cさんが心配なので」
「一人で帰れます。大人なので」
四乃の声が、少しだけ甘くなる。
「それなら、店名言えますよね? ハイハイ、分かりました。あとはちゃんと帰ること」
勝った? 勝ったのかこれは? Cは小声で呟く。
「えっと……3次会どうする……? まだみんなと一緒に、居たいかなって」
Fがほろ酔いで頷く。
「うんうん、わかる~。私もまだ帰りたくないわ~(๑˙❥˙๑)」
その時、店の外から声が響いた。
「お客さまー? ご予約のSさまー?」タクシーが停まり、運転手が顔を覗かせる。
Cは舌打ちしてタクシーに乗り込んだ。
『……今晩は、引き分けか』ᕙ(⇀‸↼‶)ᕗ
^_^居酒屋の夜は、心理戦を制した妻の勝利で、静かに幕を閉じた。ᕙ(⇀‸↼‶)ᕗ




