家計の家系図
朝食の皿を片づけ終えると、ふたりはリビングのテーブルに腰を下ろした。
タブレットと手帳が並び、朝の風がカーテンをそっと揺らす。
窓から差す陽光が、四乃の頬に淡い影を落としていた。
「共通の口座、作ってみませんか?
生活費や固定費はそこから出して――私が管理してもいいですよ」
四乃の声は、いつもの穏やかな調子だった。
まるで小さな打ち合わせのように、ナチュラルで優しい。
「うん、お願いしようかな。毎月いくらかずつ入金する感じで?」
Cがペンをくるくる回しながら答えると、四乃は小さく頷いて、
タブレットをそっと滑らせて見せた。
「はい。これで月x万円くらいで、ちょうどいいと思います。
家賃や光熱費、食費も入れて」
「現実的だね」
Cはくすっと笑い、手帳にメモを取り始める。
「個人のお金は自由に?」
「もちろん。お互いの自由は大事にしたいから……ただ、共通口座が少なくなったら、優先的に補填しましょう?」
四乃はふっと笑った。
その笑顔に、Cもつられて頬をゆるめる。
この瞬間は、まだふたりだけの穏やかな時間だった。
ふと、Cが顔を上げた。
「そういえば、通いの家政婦さん、どうする?」
四乃は、まるで待っていたかのように微笑んだ。
「え? そのまま来てもらいますよ。私が全額出すから、変わらずです」
Cは少し眉を寄せた。
「うーん……ちょっと頻度減らすとかは? 代わりに俺が家事するんで」
四乃は小首をかしげ、考えるふりをした。
だが――その目は、すでに答えを持つ人のそれだった。
「うーん……無理ですね。どうしても、プロと比べたらクオリティが落ちちゃう」
Cは黙り込む。
(なるほどなるほど? 結構な理論武装派だ)
四乃は笑顔を崩さず、少しだけいたずらっぽい表情を浮かべた。
「それに……変に削るよりも、絶対にいいですよ。
Cさんも疲れがたまると思います。
快適さを手放すなんて、もったいないですよ」
言葉のひとつひとつが正しく、優しく、否定のしようがない。
Cは、唸るようにつぶやいた。
「……それが、イヤなんですよ」
声は小さく、テーブルの上に開いた手帳に吸い込まれていった。




