Cのカムアウト
披露宴が終わった。これで本格的に新婚初日。
それまでCは、アレコレと理由を並べ立て、ほとんど実家で母親との二人暮らしを継続していた。
四乃との入籍後、Cの母からは、いい加減出てってよとブツブツ文句を言われながら、少しずつ新居へ荷物を運び込み、ようやくひと段落ついた頃。
「お、オマエとは握手しない!!(╯°□°)╯︵┻━┻」
まさかいきなり、四郎が祖父の形見を押し付けて来たと思ったら、ツンデレキャラまで発動するとは。なるほどなるほど? これが“神”に愛され賜うS家?
Cは、人から干渉されるのが大キライだ。何事も自分でコントロールしたい。
勉強しろって言われたら、急にしたくなくなるのと一緒だ。
四郎の態度にはムッとしたが、こちらは大人なので、顔には出さない。
「Cさん、次は披露宴ですって……(・o・;)」
兄・四郎のバドミントンコート襲来事件から、四乃はずっとふさぎ込んでいる。
無理もない。一度レールに乗ってしまえば、本人の意思とは無関係に、全てが勝手に決まっていく。マリッジブルーという単語に覆い隠され、結局我慢しろと口を塞がれる。
「ドーパミンって、よく出来た人体システムだな…」
終わったはずの披露宴から、いまだ続く高揚感。Cは少し落ち着かない気持ちで、四乃の後ろ姿を眺める。
「……どうしよう、今夜、ちゃんと言わなきゃ」
軽めの夕食を片付け、リビングが静かになった。
四乃が隣に座る。Cは深呼吸して、思い切って口を開いた。
「えっと……その、正直に話すね」
四乃は目を大きくして、Cを見つめる。
「……じつは、夜のこと、まだ経験がなくて」
四乃の眉がわずかに上がったが、驚きや拒絶ではなく、ただ驚きと興味の混じった視線だった。
Cは続ける。
「だから、期待とか、しないでほしい。……最初は学術的資料とか、四乃さん本人にも色々きいて、なんとかしていこうと思ってる」
四乃は静かに頷いた。
「わかりました……正直に話してくれて、ありがとうございます。私も焦らないから、一緒に考えましょう」
Cは少し肩の力を抜いた。
初めて、自分の弱味を隠さずに受け入れてもらえた瞬間だった。
その夜、なにもしないで、ただ眠りについた。
Cは思った。
「四乃さんとなら、なんとかやっていけそうだ……」
静かな夜。外では遠くの街灯が瞬く。
Cは、安心感と少しの緊張を胸に、初めて肉親以外と過ごす生活の第一歩を踏み出した。




