総支配人の推仕事(おしごと)
披露宴も中盤を迎え、会場には和やかなざわめきが戻っていた。
スピーチの緊張から解き放たれたRは、グラスの水を一気に飲み干す。
(……生きて帰ってこれた……! 四郎様の目、こわかった~ᕙ(⇀‸↼‶)ᕗ)
四郎がステージ横からさり気なく近づき、Rに告げた。
「うむ、構成・声量・間、いずれも及第点。式全体のテンポを損なわなかった。
……あと二割、感情を抑えれば完璧だったな」
Rは思わず笑いながら返した。
「褒めてるのかダメ出しなのか、よくわからないですけど……ありがとうございます」
(え、二割って……何の採点方式?(゜o゜;)
四郎は腕時計を確認し、スタッフに目配せを送る。
「さて、次は歓談とフォトタイム。配置、想定通りだな?」
ホテルスタッフたちは即座に動き、花束や照明の角度を微調整。
四郎はまるで舞台監督のように、会場の全体を見渡していた。
(……ここからが本番✨ “理想の花嫁”の自然な笑顔を引き出すのが、真の演出家だ)
BGMが軽快なワルツ調に切り替わる。
ゲストたちが新郎新婦のもとへ集まり、写真を撮り始める。
Cはいつもの調子で話しかけた。
「四郎様、そんなに張り詰めなくても。
もう式っていうより、飲み会に近いですよ?」
四郎は表情を崩さない。
「黙れ。S家の披露宴は、単なる宴ではない。地元社交界での報告の場だ。
写真一枚でも印象は資産になる」
(……しかし、この“二人の並び”……うむ、絵になる……いや、尊い……⁽⁽ଘ(ˊᵕˋ)ଓ⁾⁾)
四郎はふと視線を逸らし、スタッフ用タブレットでリアルタイム映像を確認。
カメラに映る四乃とCの笑顔。
その近くでは名士たちが笑い、グラスを携えながら歓談している。
(これぞ完璧な一枚……いや、ちょっと待て。C、もう少し角度を……)
「C、左15度回れ。そう、そうだ。四乃、顎を少し上げろ。いい、止まれ」
突然の指示にカメラマンが目を見張る。
「えっ、総支配人!? 今撮ってるの、スナップですよ!?」
「知っている。だが“偶然の完璧”は努力で作るものだ」
(推しは自然体こそ至高だが、“自然”を演出するのも、優れた手腕が問われる(~‾▿‾)~)
Rはその様子を少し離れた席から眺め、呆れ半分、感心半分で呟く。
「……四郎様、本番でもがっつりプロデュースしてる……あれじゃ新婦の兄って言うより、舞台監督だよ……」
Cは撮影の合間に小声でつぶやく。
「四郎様、これ以上ケチつけるなら、ギャラ発生するよ?」
「黙れ。お前は義弟だ。存在自体が報酬だろう」
「!?」
四郎はにっこりと笑いながら愛用の一眼レフカメラを構える。
「さあ、次はファミリーショットだ。……いいぞ、Rも入れ。
“彼らを支えた友人代表”のカットを残す。こういう一枚が、後々効くのだ」
Rは目を白黒させつつ、カメラ前に呼び出される。
(……あ、あの、私ただの友人代表スピーチ係なんですけど!?)
だがその瞬間、Cと四乃が自然にRの両隣に立った。
三人の笑顔が、フラッシュの光に包まれる。
シャッター音が響く。
四郎は胸の奥で、そっと息をついた。
(……ああ、完璧だ。家族、友、そして“理想”。これがS家。なんという幸福か……⁽⁽ଘ(ˊᵕˋ)ଓ⁾⁾)
――その微笑の裏で、これからなにが起ころうとしているのか――まだ四郎は気がついていなかった。




