S家の儀式とRの実行
宴会場の大扉がゆっくりと開く。
雅楽の静謐な調べが流れ、ゲストの視線が一斉に入り口へ向けられる。
白無垢姿の四乃と、袴姿のCがゆっくり歩み出す。
四乃の手元はしっかりとCの腕に添えられ、Cはにこやかながら背筋を伸ばしている。
S家の格式を象徴する温かくも厳かな空気が、会場に漂う。
四郎はステージ横で、ホテル仙洞・総支配人としての立場を全うする。
背筋を伸ばし、微かに腕組みをしながら、進行を細かく頭で確認していた。
(……式は完璧✨、あとは“彼ら”が自然に見えるだけでよい(人•͈ᴗ•͈))
親族席では、長老たちが満足げに頷く。
会社関係者や地元名士たちは、さりげなくカメラやスマートフォンで撮影。
羨望の眼差しと、社会的儀礼が入り混じる。
四乃は微笑みを絶やさず、Cはその脇で、会場の様子を冷静に見渡す。
(……皆、見てるな~。ま、どう思われようが知ったこっちゃないけど)
四乃は心の中で、少しだけ自分を戒める。
(……私は、理想の花嫁である必要はない。でも精一杯、笑顔で飾ろう)
披露宴はつつがなく進行した。
司会が静かに声をかける。
「続きまして、新郎側代表スピーチ、Rさんにお願いいたします」
Rは椅子から立ち上がり、手にした原稿をぎゅっと握る。
(……C君の信頼、S家という舞台、すんごいプレッシャー……でも、やるしかない!)
Cは高砂で軽く頷き、Rに向けて短く言葉を残す。
「よろしくね~、Rさん」
その声に、Rは目を瞬かせる。
(……簡単そうに言うけど、これ、めちゃくちゃ大変だからね!?)
四乃も小さく手を握り、Rの背中を見守る。
(……Rさん、がんばって)
Rは深呼吸を一つ。
会場の視線と四郎の監視を感じながら、ゆっくりと壇上へ歩み出す。
いよいよRのスピーチが始まる。はじめに言っておくが、結婚式スピーチに冒険は不要である。主役はあくまで、結婚する二人であるからだ。
Rは壇上で原稿を手に、会場の視線を一瞬だけさばく。
胸の奥で鼓動が早まるのを感じながら、口を開く。
「本日は、S家のご令嬢・四乃さん、そしてCさんのご結婚、誠におめでとうございます……!」
会場からは静かな拍手が返る。Rは深呼吸をし、原稿に目を落とす。
(……ここからだ、落ち着け……!)
Rの声は、少し震えていたが、次第に安定してくる。
Cは高砂で、微かに口角を上げている。
(……Rさんやっぱ真面目にやるなぁ、これで顔も広くなる。S家のイメージを存分に利用して、羽ばたいてってね)
四乃はCの隣で、手を軽く握りしめ、わずかに目を潤ませる。
(……Rさん、私たちのために、あんなに努力を……感涙です……!)
Rは壇上で原稿を読み進めながら、自然に笑顔を浮かべる。
「お二人は、互いを尊重し、支え合い、そして笑顔を絶やさないご夫婦です……!」
四郎は横で腕組みのまま、冷静に観察している。
(……うむ。形式は完璧。あとは推しの表情次第だな)
Cは内心で口元に手をやる仕草をする。
(……Rさん、いい線いってる。でも、もう少しだけスピードを落とすと、もっとよくなる)
四乃は手元のハンカチに顔を寄せ、微笑みを必死で保つ。
Rが最後の言葉を読み上げる。
「これからもお二人が幸せでありますよう、心よりお祈り申し上げます!」
会場から大きな拍手が起こり、Rは頭を下げる。
四乃は安堵の息をつき、Cはわずかに目を細める。
四郎は満足げに微笑み、Rへ軽くうなずく。
(……うむ、これで“儀式”は予定通り進行中だ)




