理想の花嫁
Rは思わず息をのむ。
(すご、まるで別人みたい)
「なんというか……まさに理想の花嫁って、感じですね」
「理想、ですか………? 私にはそんなもの……」
あまりに哀しげな四乃の様子に、Rはあたふたとうろたえた。
(あっヤバイ、マリッジブルーだったのかな?)
Rのアワアワヽ༼⁰o⁰;༽ノをよそに、四乃は鏡の前でヴェールを整える手を止め、少しだけ俯いた。
女子校以来の友人たちそれぞれの、結婚風景を思い返す。
様々な不都合から、旧姓使用している友人も多い。しかし、友人たちの本名は、紛れもなく夫側の姓なのだ。パスポートにもそう記載される。
四乃は今、戸籍の「筆頭者」だ。
婚姻届を出す時に初めて知った。
戸籍の「顔」。だから夫側にするのが一般的という、社会の暗黙ルール――
結果として民法上、結婚前からその姓を有し、次世代に受け継がせることが可能となる――
「家族=一人の代表+従属者」 という、明治時代の家族像の残滓。核家族単位の国民把握方法。
そして四乃は四郎の手配で実家を出たため、最近まで一人暮らしをしていた。
Cとの婚姻届提出後、Cが四乃のマンションへ引っ越す形での同居開始にあたって、再度住民票手続きを行った際に――
窓口職員から、何気なく質問された一言にも衝撃を受けた。
「ご結婚おめでとうごさいます。「戸主」は旦那様に変更なさいますか?」
Cはにべもなく断った。だから四乃には葛藤はない。夫が可哀想だとか、私ばかり申し訳ないだとか、そんな殊勝な気持ちはさらさらない。だから、
「こんなに恵まれているのに、どうして胸がこんなに重たいのでしょう……(╯︵╰,)」
「ええっと……四乃さん。それってダメなんですか?」
「え?」
「それが良いことだろうと、悪いことだろうと、変化は変化ですし。私は結婚したことないからよくわかりませんが、変化は大きなストレス原因って、昔学校で習いました」
「はあ…Rさん、……それはどういう……?」
「つまり、感情を否定すべきではない。ということです」
四乃は正面の鏡から視線を外し、Rの方を振り向いた。
「やだー私ったら、説教くさくってすみません。どうか四郎様にだけは言わないでください。たぶん面倒なことになりそう┐(˘_˘)┌」
照れまくるRを見ても、四乃の胸のつかえは取れなかった。しかし、そういうものなのだろう。
今はお色直しのリハーサル中。S家の儀式稽古とも呼べる状況――その真っ最中だ。
「ええ。私も、兄のそういうところは、好きじゃありませんから」
四乃はふふ、と笑みをこぼす。それはRが、初めて四乃に人間味を感じた瞬間だった。




