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キモノガール四乃

 面接が終わった瞬間、Rはようやく生きた心地がした。

手応えは、一切ない。

観光協会会長は型通りの質問に終始し、明らかに分かっていない様子で相槌を打っているだけだった。



探検部のM部長ーー今は観光協会職員を務めるMは、その横で淡々とメモを取り続けていた。

そのペン先の音が、妙に耳に残った。



Rは面接の礼を述べ、観光協会の事務女性から促されて面接室のパイプ椅子から立ち上がった。そこへ、Mが一瞬だけ顔を上げ、微笑んだように見えた。


Rにとっては、たったそれだけが救いの女神に見えた。


 スリッパで廊下を進むと、かすかに香の匂いがした。

新年を迎えたしばらくあとの、まだ寒さ残る冬の日差しが、障子越しにかすかに射し込む。

その先に色が見えた。この大旅館に相応しい生け花だ。



ーーロビーの一角。

着物姿に品のある女性が、生けられた松の枝を整えていた。

その姿は、襟抜きまで見事に着付けられていて、どこか古い昭和映画ヒロインのような、浮き世離れした出で立ちだった。


Rに気づいた着物女性が軽く会釈した。


「観光協会の面接の方ですね。若女将の四乃と申します。本日はご足労いただき、ほんにありがとうございました」

その声は落ち着いていて、旅館全体の温度をほんの少し上げるようなぬくもりがあった。


仲居がすぐに前に立ち、出口へ案内する。

Rは一度だけ振り返る。

花の前に立つ四乃は微動だにせず、まるで時の流れの外にいるようだった。



(あっちがサリーさんなら、こっちは着物さんか……)

その人が着てる服ってだけなのに――。

そう思うと、胸の奥がジワジワした。


Rが旅館の外に出ると、空気が鼻腔をさすように痛んだ。落ちていく日で、もうまもなく夜だった。



――同時刻、大広間では観光協会の事務女性が書類を束ね、Mが黙々と椅子を運んでいた。


「これ、先車に乗せとくね」

「ありがとうございます! Mさん、力仕事助かります」


二人が台車を押してロビー前を通りかかった、そのときだった。



会長の1オクターブ甲高い声が響く。



「いやはや、本日も立派な会場をお貸しいただいて!

 やはり仙洞館はじつにすばらしい!

 コンテスト審査員の件、四郎様にも、どうぞよしなにお伝えください!」


ロビー中央で、会長が満面の笑みで頭を下げていた。

その前には、四乃。

彼女は花の枝を整える傍ら、静かに微笑んで会釈する。


「ええ。でも御兄様はご多忙ですから」


会長にはまったく向き直っていないのに、あくまで礼儀正しく見えるのだからすさまじい。



Mと事務女性は、台車の手を止めて立ち止まり、その光景を一瞬だけ見た。

「……さすがはS家だこと」

Mが小さくつぶやく。



「ほんと、別世界ですね」

事務女性が苦笑して、Mは再び台車を押し出した。


会長の声だけが、まだ聞こえていた。






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