墓前にてファン認知
冬の陽は、低く白かった。
墓地の玉砂利に霜柱が立ち、踏みしめる度、しゃり、と音がする。
S家の墓石が並ぶ一角に立ち、四乃は手を合わせる。隣でCも静かに頭を下げた。
「お祖父様……結婚のご報告に参りました」
四乃の声は、風に流されるほどかすかだった。
香の煙がたなびく。Cが花束を整える。その所作は丁寧で、どこか遠慮がちだ。
四郎は二人の背後で腕を組み、しばし無言のまま墓を見つめていた。
「……よし」
ぽつりとつぶやき、上着の内ポケットから小さな箱を取り出す。
漆黒のベルベット。蓋を開けると、白金の指輪がふたつ光った。
「貸金庫から出してきた。祖父・二郎の形見だ。祖母に渡す前に事故死したから、縁起はわるくないぞ?」
唐突な言葉に、四乃は目を瞬かせた。
四郎は、淡々と続ける。
「お前たち、指輪すら後回しにしているだろう。見ていられなくてな。
先日、デパートの外商を呼んでおいた。四乃の好きなブランドで選ばせようとしたが――失敗だったな。
だが指の計測データは取った。だから、これを手直しして持ってきた」
そう言って、四郎は四乃の左手を取り、迷いなく指輪をはめた。
冷たい金属が肌に触れる。四乃は息をのむ。
次にCへと向き直る。
「ほら、オマエも」
Cが後ずさる前に、その手を取った。
四郎の掌は、思いのほか熱かった。
「……!」
無理やり薬指に指輪を通され、Cの表情が固まる。
その横で、四乃も複雑な面持ちで兄を見上げていた。
墓の石に刻まれた「S家之墓」の文字が、どこか重く光っている。
「素直じゃないな、オマエら~」
四郎は腕を組み、半ば呆れたように笑った。
「わざわざ用意してやったんだ。礼くらい言ったらどうだ?」
Cは小さく息をつき、手を差し出した。
「……ありがとうございます。四郎様」
「お、おう……」
握手。
——した瞬間、四郎の脳内はホワイトアウトした。
(あれ? 心臓が……うるさい……。な、なんでこんなに……?)
一拍遅れて、四郎の口が勝手に動いた。
「お、オマエとは握手しない!!(╯°□°)╯︵┻━┻」
Cは一瞬きょとんとしたが、すぐに穏やかに笑って頭を下げる。
(……やめろその笑顔! なんでだ! 眩しい!)
墓参りが終わり、四郎は会社に向かう車に乗る。
スマートウォッチのGPT四郎様モードに問いかけた。
「なあ、GPT。さっきの……俺、なんか変じゃなかったか?」
GPT四郎様モード:『推し活✔』
「は?」
GPT四郎様モード:『認知されたい、笑顔が見たい、握手で満足——それ、推し活です』
「アワワ(☉。☉)!!? お、俺が!?推し!? しかも、妹の旦那ァ!?」
四郎は額を押さえ、ぐるぐると目を回す(⊙_◎)。
「やばいやばい、そんな……でも、待てよ。落ち着け四郎。推し……ってことは……ファン……つまり……!」
(もうとっくに……家族……(ᗒᗩᗕ))
「ヤッター⁽\(ϋ)/♩! 家族だ!! 公式供給来たぁぁぁ!!」
……その瞬間、己の口から出た言葉のヤバさにようやく気づく。
(あっ……これ……理性の崩壊では?)
けれど、嬉しさの波はもう止まらない。
四郎は座席に倒れ込み、顔を覆った。
「……俺、ほんとに推し活してるんだな……」




