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S家へようこそ

 控室の窓から差し込む午後の光は、雪明かりを柔らかく反射していた。


畳の上に座るCと四乃。式を終えた余韻の中、二人はまだ少し肩に力が残っている。



四郎は静かに座し、控えめに湯飲みを手に取る。


その視線は自然と、白無垢の妹と黒紋付きのCへ向かっていた。



「さて……入籍の日取りを決める」



唐突な声に、二人は一瞬息を飲む。


Cは微かに眉を上げ、四乃は口元に指を置き、緊張を隠そうとする。



「……え、まさか、今日?」Cの声は少し震えていた。


四郎は軽く首を傾げ、淡々と答える。



「いや、今日ではない。だが先延ばしにする理由もない。来週の平日、午前中に市役所へ行く。これで双方の手間も最小限だ」



Cは一瞬目を丸くしたが、すぐに真顔になった。


「わかりました……よろしくお願いします」



四乃も静かに頷く。


「……はい。お兄様の仰るとおりに」



四郎は湯飲みを置き、二人を順に見渡す。


その表情は穏やかで、形式通り、兄としての責務を全うしている。


だが、胸の奥では、得体の知れない感情がくすぶっていた。



「では、必要書類は俺が用意する。二人は署名と印鑑を忘れぬように」



Cは笑顔を返す。


四乃も小さく頷く。



――すべては計算通り。


兄としての責務を果たす四郎。


しかし、AI解析にあったような、胸のざわめきは止まることはなかった。



雪のちらつく控室で、三人の間に静かな決意と形式の秩序が漂う。


入籍という未来への一歩も、四郎の掌の内で淡々と進められていくのだった。






翌週の平日。


薄曇りの空から柔らかな光が降り注ぐ、市役所の戸外階段。


四郎は革の手袋を軽く直し、妹・四乃とCの間に立つ。


控えめに、しかし確固たる視線を二人に向ける。



「今日が入籍手続きだ。手順は至極簡単だが、確実にな」



四乃はうなずき、白いコートの袖を握りしめる。


Cも、書類を胸元に抱えている。


二人の緊張は控室の式のときと同じく、静かに張り詰めていた。



市役所の戸をくぐると、窓口の職員が二人を迎える。


「ご用件は?」



四郎がCから受け取った書類を差し出し、端正に説明する。


「婚姻届の提出です。署名はすでに本人たちが済ませています。書類の確認と受理をお願いします」



職員はにこやかに頷く。


四郎は四乃とCの間で静かに立ち、形式通りの手順を確認する。





 Cはその様子を、じっと見つめた。



 ——もう俺の姓は消える。



 些細なことだと理性は理解している。離婚前は母も、見知った既婚女性たちも、同じことを経てきたはずだ。


 だが不意に、自己憐憫が胸の奥で小さく渦巻く。


 自分が自分でなくなるような、わずかな喪失感。



 その様子に、横にいる四郎の目が一瞬留まる。


 ……が、その胸中には喜びしかない。



 家族として迎え入れた男が、法的にも正式にS家に組み込まれる——それだけで、四郎は心底ウキウキしているのだ。



 「これで、家族の一員だな」と、誰よりも満足げに微笑む。

 無自覚な興奮が、空気をほんのり震わせる。



 一方、四乃はすぐに気づく。


 Cの微かな肩落ち、唇のわずかな動揺。


 兄はそれに全く気づかず、自分の計算通りに淡々と喜びを膨らませている。



 四乃は小さく息を飲む。兄の無自覚な幸福と、Cの静かな喪失——その対比が、妙に切なく胸に迫った。



 Cは緩く腕組みをした。



 ——理屈では消せない、この感覚。


 誰かと比較できず、ただ自分だけが抱える、わずかな自己憐憫。


 だがその隣で、四郎の無邪気で満足げな顔を見ると、思わず力が抜ける。


 四乃は黙ってその様子を見守り、心の中で小さく呟いた。



 (……兄は、何もわかっていない。いや、わからなくていいのかもしれない)



 役所窓口に佇む三人の関係は、微細な温度差と感情の交錯のまま、新たな日常へと進んでいく。




「ここに押印をお願いします」


四乃が朱肉を手に取り、慎重に印鑑を押す。


Cも同様に、少し手が震えながらも落ち着いた動作で押印を終える。



職員が書類を再確認し、受理の判子を押す。


「これで正式に婚姻が成立しました」



その瞬間、控室や神殿のような厳粛さはない。


だが四郎は息を吐くと、妹夫妻の肩越しに声をかける。



「C! S家へようこそ。これで、法律上も正式な夫婦だ」



(……公平に、形式どおりに。すべてはS家として、兄としての責務だ)



しかし四郎の胸の奥では、まだ小さなざわめきが消えていなかった。


GPT四郎様モードが告げた通り——Cを見つめるその目に、理性と本能が微妙にぶつかり合う。



外に出ると、冬の空気が頬を撫でる。


雪は舞っていないが、心の中の白い静寂が、三人の新しい日常をそっと包んでいた。





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