完璧な家族
四郎の声が体育館に低く響く。
Cはその場に凍りつき、四乃も目を見開いた。
「嬉しいだろう? ずっと待っていたんだから。堂々と会える、家族として――な」
四乃の口元がかすかに震える。
反発心が、わずかな時間だけ、胸の奥から湧き上がった。
「そんな……私たちは単なるスポーツ仲間で!」
声は小さく、けれど確かに四郎に届く。
四郎は腕を組んだまま、静かに、しかし鋭い目で彼女を見下ろす。
「ふむ……? 兄には昼夜家を任せ、オマエは気楽にバドミントンか?」
その一言に、体育館の空気がさらに締まった。
四乃の心臓が跳ねる。
けれど、次の瞬間には、四郎の穏やかでありながら揺るぎない圧に、言葉は引き戻されてしまった。
「……なんで急に妹いじめを?」
四郎はゆっくりと歩み寄り、四乃とCの肩を引き寄せた。
その存在は、逃げ場のない壁のように感じられた。
反抗の余地を、一瞬にして押し潰す力。
「オマエたちには、躾が足りないようだ」
四乃は小さく悲鳴を上げ、慌てて自分の口をふさぐ。
声は途絶えた。だが、Cの心の奥底で、反抗の火は完全には消えていない。
四郎の圧の前に沈黙しただけで、次にどう動くかは――まだ、誰にも分からない。
「なあ、四乃。結婚したいよな? 結婚したいだろ? オマエの友人たちは皆、家庭を持ち、慎ましく暮らしている。……それを横目で見て、いつまで気ままに生きるつもりだ?」
「C、お前も同じだ。弟に尽くし、母に尽くすだけの人生で満足か? 孤独で終わるくらいなら、今、決めてしまったほうがずっと楽だ。……さあ、答えろ。結婚するのか、しないのか?」
四郎の言葉は穏やかだが、底に潜む威圧は逃れようもなく、体育館全体に染み渡る。二人は視線を合わせ、恐怖と戸惑いの中で合図を交わすしかなかった。
「お兄様の……仰るとおりにいたします……」
四乃の声はかすれ、震えていた。
「え? 四乃さんのためなら!」
Cは息を飲み、必ず離婚しよ、と誓った。
四郎は二人を見下ろし、笑みを深めた。
「フフフ……素直じゃないなあオマエら~。だが、それもまた可愛いものだ」
その笑みの奥に潜むものは、愛ではなく、完璧な掌握と、二人を逃さぬ圧力だった。
体育館の灯りが、二人の未来を淡く照らす。
“これで完璧だ”――四郎の眼差しは、二人にそう告げていた。




