拍手喝采のF
ようやくAndroid版地図アプリのリリース準備は整った。
しかし問題はーー認知度不足だ。アプリストアに並べただけでは、誰の目にも止まらない。
ユーザーが集まる導線を作らなければ、せっかく作ったアプリも宙に浮いたまま。
あのとき、地元観光協会のDX観光モデルコンテストで優勝していれば……Rは悔やむ。
もし、そうであれば――少しは地元紙が取り上げてくれたかもしれない。
だが、現実は無情である。
無名なRが作者の、無名アプリでは、記者がわざわざ時間も、紙面も割く理由はないーー悔やんでも悔やみきれない。
「C君、記者の知り合いとかいない?」
Rはダメ元で聞いてみる。しかし、Cは肩をすくめた。
「やだな、Rさん。そんなのいるわけないじゃん」
Rは舌打ちをした。
「ちぇっ、ダメ元で電話してみるか……」
Rは受話器を握りしめ、地元新聞社に電話をかける。
「担当の者に代わります。しばらくお待ち下さい」
Rの耳に当てた受話器からは、よく分からないクラシック系音声がしばらく流れている。緊張と同時に、期待も高まる。
(おっおっおっ? 行けちゃう? もしかして行けちゃう?)
「申し訳ありませんが、そういう宣伝みたいな記事は、うちではちょっと……」
R、ガックシ……。
礼を述べ、電話を切った。
やはり簡単にはいかない。
「難しいんだなあー、アプリの性質上、俺みたいに地道に営業まわりって訳にも行かないし……だれか地図アプリDLして~」
Cはヘラヘラ笑いながら、中古車販売店の書類仕事をこなす。Rは若干イラついた。
(良いよな~おめぇさんはよぉ! こっちの気も知らねぇでよお!)
とはいえ、内心でCに八つ当たってもしょうがない。Rは気を取り直して言った。
「この地図アプリ、一般ユーザーが使ってナンボだから……食べ歩き系インフルエンサーに、案件を依頼するのは?」
Rはあらゆる主要SNSを駆使し、片っ端からDM連絡を取りまくった。
が、ちゃんとしたインフルエンサーに受けてもらうには、提示額がなかなかお高い。
相手もチャンネル登録者数がかかっているから、よっぽどのアプリでないとーー
即案件乙→視聴者離れを起こすので、慎重なのだろう。
「Rさん。俺たちみたいなインドア派の発想じゃだめだ。マーケティングは、だれか別の人に……」
Rは、親友Fの笑顔を思い浮かべた。彼女ならThe アウトドアだし、SNSの世界にも精通している。マーケティングは、Fに任せた方が良さそうだ。RはFにDMする。
@r_makeappmap*** F!一生のおねがい! マーケティング手伝って!!
@f_xoxo**** え!全然いいよ。とりあえずママ友に広めるね❥❥
まずはF自身の、ママ友ネットワークで口コミを広めることから始めるという。Fはシンママだから、人よりさらに付き合いを大事にしている。
それからはFも、Rの会社がある中古車販売店に通うようになった。
Fは息子を自然教室パプティノコンに預けてから顔を出し、資格取得の勉強をしながら、RやCと共に、アプリのマーケティング戦略を練る。
Fはインフルエンサーの選定に取りかかった。
「案件ふるインフルエンサーは、安直な食べ歩き系はナシ!」
「ねらうは社会人経験がありそうーーかつ、全く別ジャンルで、人気はあるけど全然案件来ない~って、愚痴ってるようなタイプ」
Fは、ちから強く主張した。Rは首をひねる。
「えっ? なんで別ジャンル?」
「フッフッフッ、よくぞ聞いてくれましたRさん!
まずある程度の社会人経験があれば、まともに連絡をくれるからです。
そして次に別ジャンルである理由ーーそれは、視聴者層がリーチしていない分、我々の地図アプリには競合が少なく、ブルーオーシャンになる可能性があるから!
皆さん、これでおわかりですね?」
RとCは、おしみない拍手喝采をFへと送った。
「それから先にクラファンを始めてーー話題性や親近感、あと単純な宣伝効果をもたらす!
R、公式サイトの用意も忘れずに!」
Rは深呼吸をして画面を見つめる。目の前には、作った世界と、それを伝えるための新しい戦略が広がっていた。
Rは孤独ではない。Fという心強い相棒。そして、Cの支援も。
「よし……やるぞ」
Rは青文字キーボードを叩き始めた。ここからが、本当の挑戦の始まりだ。




