表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/128

Rの門出


 ここは、Cが経営する中古車販売店。

 オフロード沿いにたたずみ、のぼり旗がパタパタと風に揺れる。


 安っぽい店の作りは、誰もが気後れすることなく、ふらっと立ち寄れる雰囲気を醸し出していた。


 Rはその事務所の一角に立つ。


 Cは店の奥で模様替えの真っ最中だ。


「とりあえず、事務机は動かしといたから。パーテーションは、Rさんが自分で買って。んで、送付先はうちの店にすればいい。…着払いにはしないでね。(指振りをチッチッチ)」


 ――この人、何あたりまえの事を言ってるんだ? そんなに私って、常識無いように見える? と思いながら、Rはうなずいた。


 Cの店の一角、ちょっとしたデスクと書類棚、そして簡易のパソコン机が置かれただけの簡素なスペース。


 だが、これからはRの会社の“本店”となる。



「こんな感じで、ほんとにいいの……?」

 Rは自分に問いかけるようにつぶやく。


 Cは店の奥で、作業の手を止めて微笑む。


「大丈夫。登記もここでOK。書類も出資も、俺は一回全部やったことあるから、分かんなかったら何でも聞いて~」


 Rは深呼吸して、定款のコピーと印鑑を手元に揃えた。



 法人設立の手続きは、書面と印鑑の世界だ。

 公証人役場の認証、法務局への登記申請、出資金の振込――その一つ一つが、仮想現実をリアルにする儀式のようだ。


「まずは会社名と事業目的、所在地を決めよう。アプリ運営だから“IT・地図サービス”でまとめればOK」


 Cが、バインダーに挟んだコピー用紙に書き込む。

 Rも持参したノートPCを広げ、株式の配分や役員構成を整理する。


 Rが代表取締役、Cは取締役兼出資者だ。


「ここに書くのが、本店所在地……なるほどね、C君の店舗住所を使えば、自宅バレの心配なし」


 Rは小さく安堵した。



 出資金は、RとCが事前に発起人としてRの個人口座に振り込み、振込証明書を銀行から取得済みだ。


 定款を公証人役場で認証してもらい、ようやく法務局に書類を提出する。


 なぜ士業の事務所は法務局周辺にやたらめったら多いのか?

 ――Rは身を持って理解した。


 窓口の職員が書類に目を通す姿を、Rは祈るようにじっと見つめる。

 すべてが「リアル」になる瞬間だ。


「よし、これで設立手続きは完了っと。次は信用金庫か地銀で、法人名義の口座を作ろう。どーせメガバンクに作ったって、出資はしてくんないしな~」


 信用金庫までの道のりを運転するC。

 若干の怨念がこもったその内容に、Rは目をまるくした。


「そうなの? 私はまだそんな借金できるレベルじゃないけど……次はクラウド契約とAPI契約、そしてリリース準備しなくちゃ」


 Rは手元のアプリに目を落とした。

 大学時代にプロトタイプを開発し、新たにブラッシュアップした拡張型仮想現実地図アプリは、すでに完成済みだ。




 無事法人口座も開設し、Cがその場で運転資金として追加の入金手続きを行った。


「これで当面の運営資金はバッチリだろ」とCが笑う。


 その頼もしい後押しに、Rは内心で感謝しつつ、ついでに自身の個人口座も開設した。

 ――あとでメガバンクから資金を移して、自己資本も法人口座に入れておこう。


 信金職員との名刺交換。これからは、いよいよマーケティングや収益化、そしてクラウドやAPIとの連携作業がRを待っている。



 Cの店の一角を間借りした小さな事務スペースは、今やRの未来の会社の心臓部だ。


「ここからが本番、……かあ」

 Rはつぶやき、デスクトップPCの電源を入れる。

 その隣で、マグカップに残る熱々のドリップコーヒーの香りが、Rの鼻腔をくすぐり、心を癒やした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ