特待生諸君、栄光あれ。
AI丸写し、成績底辺層、ハンドボール以外やる気ゼロ。挨拶チワワな諸君たち。
その正体は、日々ハードワークな部活動に追われながらも、精一杯課題は提出していた、ごくごく普通の青少年たちだった。
彼らが提出物を、AI回答で丸写しするのは、その時間と体力の大部分が、部活動に割かれているから。
Rはスコアデータを計算ソフトへ手入力しながら、じいさん先生に疑問をぶつけた。
「みんながみんな、スポーツ特待生って訳でもないのに――それに、お金で才能買うのって…正直どうかと思います。私学は経営戦略上、しょうがないんでしょうけれど」
「それだけじゃないさ。――だれが弱いチームなんかで、プレイしたいんだい? 強い人の進学先は、それだけで価値がある。強豪校とはそういうもの。レギュラー争いも熾烈だが、学ぶことも沢山ある」
部活に課題。保護者や、教師からの期待。
”なりたい自分像“と、そのための進路。
全部背負って、闘っている。
AIに頼るのは、手を抜きたいからじゃない。
“倒れないための手段”なんだ。
Rはノートを閉じた。
そして、つぶやいた。
「でも、生徒たちのその先は? 私たち教師だって、本分は勉学指導です。……生意気言ってすみません。今日1日しか部活見てないのに」
「いや、分かるよ。僕だって家庭はあるからね。妻は公立高校教師だし、同じように部活顧問だ。子供がまだ小さかった頃、預け先がなくて仕方なく、試合会場まで連れて行って、目の届くすみっこに寝かせていたこともある」
あまりの内容に、Rは絶句した。
「そのとき思ったよ。――“学校教育”って、きれいごとじゃ回らないんだなって」
じいさん先生は、湯飲みを手にして、ふうと息をついた。
「理想も大事だ。でも現場は、理想だけじゃ生徒たちを守れない」
「……守る、ですか?」
「そう。叱るより、まず倒れさせない。怒鳴るより、まず辞めさせない。
“続けさせる”ために、教師はときどき、手段を選ばなくなるんだ」
Rは返す言葉を見つけられなかった。
昼間見た、炎天下で膝に手をついていた部員の姿がよみがえる。
彼らは“やらされてる”んじゃない。
“やめないでいる”のだ。
「……強いチームって、そういう強さも含めて、ですか」
「そうさ」
じいさん先生は、目尻に皺を寄せて笑った。
「ただ、教師の側が倒れたら元も子もない。R先生、今日はもう休みなさい」
その声は、ホイッスルよりも穏やかで、けれどどこか切なかった。
Rはうなずき、静かにクラブハウスを出て実家へ帰宅した。
湿った夜風が頬を撫でる。
チワワ諸君は爆睡して夢の中。
――倒れないための手段。
それは、生徒にも教師にも、同じことなのかもしれない。
「時間も心も、余裕が足りない、か……」
Rに出来ることなどあるのだろうか?
卒業生Cのような合格率特化型の特待生、チワワ諸君の中にいるスポーツ特待生と比べれば――結局天才でもない一個人ではたかが知れているのでは?
才能を伸ばすには努力が不可欠だ。しかしその努力できるかどうかも、また才能だった。




