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Rの躊躇と栄光ある校史

――放課後の情報準備室。Cがインスタントコーヒーを片手に、軽く声をかける。

 「拡張型仮想現実地図アプリの方は順調? どこまで開発すすんだ?」

 


 「ほぼ完成してるけど……」

 Rは答えながら、私物の高性能ノートPC画面を少し傾ける。コードの羅列と地図の断片が流れ続けていた。


 「座標の統合までは終わってて。有料APIの地図を継続して使いたいんだけど、資金が……」

 「ごめんごめん、俺あんまよくわかんないから!」Cは両手を上げて笑った。

 「ただ情報教諭資格あるだけの、私立文系だし!」


 「まあ、文系にもできることはありますよ?」

 「たとえば?」

 「出資とか」

 「なるほどね!」とCは膝を叩いた。

 「じゃあ決まり。EV売れたら出資するから会社作ろう」


 「さっき言ってた電気自動車?」

 「うん、だれか左ハンドルEV買って~ じいさん先生、買わない?」


 「買わないよ」

 同じ情報準備室内で、黙々とテストを○つけしていたじいさん先生が、手書きしながら顔を上げずに答えた。

 「とっとと潰れりゃいいんだ。そしたら僕は退職。C君は情報教諭で借金返済。完璧なライフプランだ」


 「ひっどーい、卒業生をもっと応援してよ!」

 Cが軽く抗議するように言ったその時、スマホの通知音が鳴る。

 「あ。売れた。チリで」


 「……え?」Rはまばたきした。

 「いや~、大学でスペイン語取っててよかった! 南米ECって穴場だわ。国際送金もラクラクだし、ペイパルマフィアばんざーい」


 Rの脳裏に、ニュース番組で見たイーロン・マスク氏の笑顔と、Rが勝手にアテレコした台詞がよぎった。

 ――hahaha, good job!


 話題は自然にCの学生時代へと流れた。


 Cはもともと特待生だった。交通費も受験料も全支給の上、大学三科目受験を合格しまくり、母校の合格実績に貢献した逸話を持つ。


 「国公立大学は、オールマイティしかお呼びじゃないからね」じいさん先生が口を挟む。

 「むらっ気のある天才は、ちょっと得意科目があるだけの凡人さ」


 確かに、200X~201X年頃の文系私立大学なら、英語・国語・社会の三科目受験で、有名校を狙えた。

 英語は配点が大きく、Cのために英語教諭とALTが総動員された。

 社会科目は得意な政治経済と世界史を選択。

 彼は国語も得意だったが、センスで解くタイプ――そのため、出題者との相性次第。

 結果、わりと誰もが知ってるレベルの有名私大なら、軒並み合格通知が届いた。


 「へー、せっかくなら行けばよかったのに」

Rが感心したように言うと、Cは照れくさそうに肩をすくめた。


 話は次第に、会社設立の具体案へと進む。


 「どうする? 俺が出資するのは確定として、俺がボスでRが役員をする? それとも、Rがボスで俺が役員?」

 「なに言ってんの、私がボスだよ」Rは笑った。

 「C君はお金だけ出してればいいの。分け前はちゃんと寄越すから安心して」


 じいさん先生は、ふっと笑いながら手元のプリントを指で叩いた。

 「学校の○つけアプリの件、あれも属人性高いんだろ? R先生がいなくなったら、また手書きに戻るよ。進級や卒業のたびにデータ更新も必要だし」


 Rは一瞬、言葉に詰まる。

 退職はしない。ただし今後は、アプリ開発を本業に、講師を副業にするつもりだ。

 アプリが軌道に乗れば、しばらく休職も考えている。


 その前に、ひとつだけやっておくべきことがあった。


 じいさん先生が顧問を務める、ハンドボール部の副顧問になること。

 AI丸写し、成績底辺層、ハンドボール以外やる気ゼロ。挨拶チワワな諸君たち。

 その現場で、Rはあらためて「教育とは何か」を問われることになる――。




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