限界FとRの日常
#F
「はい、はい――分かりました。申し訳ありませんが、今回は辞退します。本日は貴重なお時間を割いていただき、誠にありがとうございました」
こうやってペコリと頭を下げるのは、もう何回目?
ああ、自宅まですぐそこ。
また両親をガッカリさせてしまう。Fは立ち止まって、ただぼんやりと、夕暮れに染まる空を眺めた。
Fの底抜けにあかるい両親は、平日はバリバリ働いている。
自宅ローンの返済や、老後資金捻出のために。両親はそんな事ぜったいに言わないが――きっとFの学費を、私立大学まで全負担したのも要因だ。
ほんとだったら、私と亡くなったおじいちゃんみたいに――今ごろ孫と遊んで、余生も、のんびり過ごせたはずなのに。
おばあちゃんは、おじいちゃんの終末介護で腰を悪くして、いまは介護施設でリハビリに通うので手一杯。お墓参りにもおちおち行けないのを気に病んでる。
田舎のおばあちゃん達は、まだまだ元気。この前電話で、「たいへんならこっち来たら?」って言ってくれた。でも、遠方の過疎地域だから、現地雇用なんてない。だいすきな田舎だけど、私は可愛がられてて、ろくに手伝ったこともないし。
息子だけ預ければ…なんて、ぜったいにいや。離ればなれになんて、ぜったいにしたくない。
なのに、契約社員やパートも、Fが希望する時間帯では、既に誰かが働いていて――面接で要求されるのは、早朝か深夜。あるいは、半ばフルタイム。
そんなんで、働けるわけないじゃん! 外国人労働者が増えるわけだよ。
保育園は…私脱婚してシングルマザーになったんだし、優先度高めと思ってたのになあ……空きがある認可保育園は、実家から車で1時間はかかる。しかも預け時間に、柔軟性はない。
つらいけど、家族のまえでは泣かないでいなきゃ。くじけたら、みんな困っちゃう。
よって、明日もスキマバイト層状態。
Fの今日の現場は――閉店するスーパーの後かたづけ。
帰り際、道端でティッシュ配りから、無料のポケットティッシュを渡されて、広告をちらっと見る。
ポップでキャッチーに高収入を謳う男性接待業。ちからをこめて握りつぶす。
「配ってるのもスキマバイトなんだろうな……」
私しってるもん。学生時代、よく派遣バイトしてたし。
その現場が今はスキマバイトに置き換わっているから、ホントよく分かる。
#R
Rは、じいさん先生の助力もあって、なんとか情報の授業をこなしていった。
イマドキ高校生たちの、すぐ動画撮ってはSNSに流す個人情報のガバガバ具合――炎上したらどうするの? この子たち、将来こわくないの?
「Rちゃん! 教科書忘れちゃった!」
「あ、おれも~」
また、ちゃん付け――この学校、荒れてる方じゃないはずなのに。タジタジすると余計盛り上がるから、こっそり撮られてないよね? って、ヒヤヒヤする。
それと、授業の中身はともかく……テストは穴埋め問題中心って、こんなの意味ある?
職員室では、年々増え続ける生徒のAI使用が議題に。教頭先生の嘆きは深い。
「課題とテスト結果の乖離がひどい。昔は頭いい子の丸写しだったから、すぐ分かったんだけどなあ~」
Rは思う。
うん、やっぱりそうだよね。私だって高校時代にコレがあったら、バリバリ使っちゃう自信ある。
3年生の学年主任が、手を挙げて言い放った。
「R先生。なんとかしてください。前職プログラマーだったんでしょ? 部活も担当してないし、副業する時間もあるんだから。 ね? ちゃちゃっとやっちゃってくださいよ~」
職員室みんなの視線がヤバイ。学校の講師って、こんなにつらいんだ。心折れそう。
すると――カーディガンのポケットで、スマホが振動した。Rがあとで通知を確認すると、M部長からのメッセージ
《日帰りで低山ハイキング行かない☻? アスレチック公園もあるよ》




