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挨拶チワワ

 Rは地元中堅私立高校の情報講師に採用された。


一般的に、正規採用のフルタイム学校教師は「教諭」という身分を有する。一方、彼女のような「講師」は、非正規採用であり、勤務時間の多寡とは無関係である。しかしどちらも学校生活上は、「先生」と呼ばれることに変わりはない。



学校長室では、気さくな定年間近の校長と、しゃっきりした老婦人の理事長がソファに並んで座っていた。理事長は老眼鏡越しにRが提出した副業届をじっと見つめ、静かに口を開く。



「なるほど……Rさんは、副業としてアプリ開発をなさりたい、と」



Rは少し緊張しながらも、胸を張って答える。


「はい。私は少しプログラミング経験がありますが、現場から離れると知識が古くなってしまうので。生徒のICT教育のためにも、最新情報を常にアップデートしておきたいんです」



理事長は頷き、淡い微笑を浮かべる。


「まあ! それは頼もしいですね。うちの生徒たちにも、心強い助っ人になるでしょう」



校長は理事長に全面的賛同し、にこやかに言った。


「理事長のおっしゃる通り! ぜひ、わが校の教育現場で役立ててもらいたい。部活動の副顧問とかの話は、焦らずおいおいね。わっはっは」




###



その後、年配の情報教諭がやって来て、Rを情報準備室に案内した。Rは自分のデスクに私物を置いた。細々とした物の整理は、明日以降、出勤日までに終わらせる予定だ。



年配の情報教諭は、学習指導要領をRに手渡すと、にこやかに声をかける。



「若い人が来てくれて助かります。よろしくね、荷物は女性ロッカー室だけじゃなくて、この部屋のロッカーも使ってくれていいから。冷蔵庫と電子レンジもあるよ。職員室からのお下がりだけど」



Rは手元の学習指導要領に視線を移した。厚みのある冊子には、年度版のカリキュラム表や学習内容、試験範囲までびっしりと記されていた。じいさん先生は軽くデスクに手を置き、にっこりと笑う。


「あーどっこいしょ。まずは、それで授業の流れを掴んでくれればいい。細かいところは僕がフォローするから」



準備室を出て校舎の渡り廊下を歩きながら、Rは今日のやり取りを反芻していた。校庭から声が聞こえてくる。ハンドボールをしている男子部員たちの中で、一人がちらりとRのほうを見て小さく声を出す。



「っちわー!」



それを聞いた他の部員たちは、誰かいるんだなと軽く認識するだけで、顔も上げずボールを追いながら、同じテンションで次々と声を重ねる。



「っちわー!」「っちわー!」「っちわー!」



――チワワ。



男子運動部員によく見られる短縮形日本語挨拶は、一種の照れ隠しなのだろうか? Rはくすりと笑いながら、新学期に思いを馳せた。



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