Rのレール
手相占いは、女性向きの商売だとRは思った。老若男女、占い師に生理的な忌避を感じづらいから。
「あなた……いま悩んでますでしょう?」
「そりゃあまあ――」およそ悩みのない人間が居るだろうか? ましてや1000円払ってまで、街角の見知らぬ老婦人相手に手のうちを晒け出し、しげしげと眺めるのを許すような人間が。
「うちにも息子がふたり居ましてね――片方は自由人、もう片方は不自由人」
「それは、偏った見方じゃないですか? 私だって自分の両親に、全部話したりしませんよ」
「じゃ、あなたは誰に話すの? 隣のお友だち? 居るならご兄弟? もっと親密になりたい相手? それとも縁もゆかりも無い画面越しの誰かさん?」
「…………知りません。勝手に決めます。そのときどきで」
「それはよかった。じゃ、なにを見ますか? 健康運? 家族運? 仕事運? それとも単純な過去か未来?」
「過去でお願いします」Rはつっけどんに言い放った。自分でも不思議でしょうがない。街角の占い師相手に、なにをムキになっているのだろう。
「ふむふむ――意外ね。あなた普通科高校じゃないんだ。通信制? それは隣のお友だちか、でも何か特化型の学校ね。ご両親は反対してた――ふつうじゃないって。そこしか行けないような、ヤンキーか劣等生がいっぱいで、おとなしそうなあなたには無理だって、話も聞かずに決めつけた」
「合ってます」
「でも、あなたはそれを乗り越えた。勉強を放棄して、成績をわざと下げた。お父さんはとても激怒、お母さんはなにか悩みでもあるの? って寄り添う。娘がグレたら困るものね」
Rは深呼吸した。苦手な焼酎を呑んでいて正解だった。
「担任の国語教師は困惑。あなたは読書好きで国語の成績がよかったから。もし将来、文学部に行くなら不利になるとアドバイス。でも、あなたは――」
過去の光景がRの脳裏に蘇る。担任の先生の呆気にとられた顔。決して悪い人ではなかった。だが、仕方なかったのだ。
『わたしは役に立つ勉強がしたいんです!!』
最近は評価されつつあるようだけど、昔の悪しざまな言われようと言ったら。今よりずっと酷かった。世間は至極身勝手だ。高専入学なら就職率100%と持て囃すのに――工業高校に期待するのは、甲子園出場がせいぜいだ。




