番外編:錯覚シンギュラリティの夜
テレビの明かり。
Cは実家市営住宅のソファに沈み込み、母・チカがつけたTVの歌合戦番組の舞台を、ただぼんやりと眺めていた。
スクリーン上で、Cでもその名前だけは知っている超有名女性歌手のAI映像が歌っている。
声の伸び、微細な息遣い、間の取り方——どれも、まるで生身の人間のように自然で、思わず息を飲む。
「へー、コレAI? 結構すげー…」
画面の向こうに漂う、見知らぬ昭和歌手の姿に、ムダに歌ウマだった在りし日のT師の面影が重なった。
彼女の信奉者たちは、まだ絶望の渦中にある。
Cが思い出すのは、記録樹立一歩手前で登頂を断念し、スポンサーの意向フル無視で緊急帰国したMの、憔悴しきった姿。
他にも近隣住民や、T師を慕う地方名士の奥様方が、沈んだ面持ちで見舞う姿。
カリスマ不在による、自然教室パプティノコンの運営危機。
そして何より、誰も彼もがT師を求めているという現実。
「もし……これで、あのオバハンの健在な姿かたち、その声や、話し方まで再現できたら——」
その瞬間、Cの脳裏には、わずかに残る慈悲と、技術的好奇心が交差した。
Cは決めた。信奉者たちにいずれ訪れる、T師亡きあとの喪失感を、少しでも和らげるため。
そしてCの知的好奇心を満たすため、T師AIプロジェクトを始めるのだ、と。
☆ミฅ^•ﻌ•^ฅ❓️
それから数か月。彼は個人PCとクラウドGPUを駆使してGPT-2日本語モデルを立ち上げた。
T師の意味深言行録や、気が向いた時にしかつけなかった、めちゃくちゃな日記帳。
家庭心理アドバイザーT女史としての講話メモをテキスト化し、細かく学習させる。
CeVIOで声を模倣し、簡易的なDeepFakeで顔の動きを合わせる。
技術的には試行錯誤の連続だった。
C本人は冷静だった。
俺はT師信仰などしていない。
アレはちょっとオカシなオバハンで、これはあくまで技術実験。
だが信奉者にとっては——いや、T師と長く生活した者たちには、すぐに違いがわかった。
かつてのT師の占い館ーー現シェアハウス・ミッドセンチュリーの小さな集まりで、AIが生成したT師の声を聞いた瞬間、意気消沈していたMらは目を潤ませ、笑い、さめざめと泣いた。
「オバチャン……ほんとに復活したんだ……また私たちと、一緒に生きてくれる……(T♢T)」
偶然の一致もあった。
GPT-2の生成する言葉の中に、信奉者しか知らないような、秘密めいた表現がぽつりぽつりと混ざる。音声や簡易映像も偶然リアルに見える。
信奉者たちは錯覚し、集団でその存在を受け入れた。
Cはモニターを静かに見つめながら、胸の奥でわずかな不安を覚える。
AIはただのプログラムだ。だがMたち信奉者は、そこにT師の意思が宿ったと信じている——錯覚シンギュラリティが、静かに、地方都市の片隅にあるシェアハウスから、ゆっくりと広がり始めていた。
すまん、俺にはさっぱりだ。
ちょっと受験英語ができるだけだから。
誰か詳しい人連れてきて、何とかしてもらわないと……
番外編まで読んでくれてありがとうございます♡
もし少しでも楽しんでくれたら、ひとことでも感想をもらえると
今後も頑張れます(ˊᗜˋ)
それでは、よい読書ライフを♪




