こわれていくある家族の日常
一見、ふつうの小学生の日常だった。
姉たちとチャンネルを取り合い、制服のお下がりを着なくていいと喜び、
部活の話題で盛り上がる。
野球もサッカーも暑苦しいからいやだ。バドミントンにしようかな。
「体育館こそ地獄だよ。夏は灼熱、冬は極寒」
「バスケにしなさいよ、背が伸びるしモテるから!」
「姉ちゃん、それ漫画の影響でしょ」
「Cなら何でもそこそこできるんじゃない?」
夕食を作る母が笑いながら、「中学に上がったら、パートに出ようかな」とも言った。
父親は今日も帰りが遅い。
✕
母の具合が悪くなった。
「ねぇ、なんで授業参観来てくれなかったの? みんなお母さんかお父さん来てたのに」
母はまた病院に行っているらしい。どこが悪いんだろう。
父親は今日も帰りが遅い。
✕✕
やがて、父方の祖母が来た。
家の空気が少し重たくなった。
「あなたねぇ、結婚して何年経ったと思ってるの? 息子は働いてるのに、家のこともできないでどうするの」
姉たちは食事中ほとんど話さなくなり、すぐ部屋にこもった。
あるいは遅くまで塾の自習室にいるようになった。
父親は今日も帰りが遅い。
✕✕✕
放課後、家に帰ると母がいなかった。
祖母に聞くと、入院したという。
父親は今日も帰りが遅い。
姉たちはヒソヒソ話をしていた。
「Cにはまだ早い」と言って、追い払われた。
祖母は掃除が好きみたいだった。
模様替えを繰り返すうちに、母の私物が少しずつ減った。
父親は今日も帰りが遅い。
本当にいるのだろうか。夜、帰ってきているのだろうか。
✕✕✕✕
学校で担任に呼ばれた。
「お母さんの入院、大変ね。ちゃんとお見舞いには行けてる?」
「別にふつうです。おばあちゃんがご飯作ってくれてます」
そういえば、お見舞いには行ったことがない。どこの病院なんだろう。
帰って祖母に聞くと、「知らない。行きたくもない」と怒られた。
どういうことだろう。
姉たちに聞くと、「行かないほうがいいよ。落ち着いたら帰ってくるからさ」と言った。
結局、どこなのか誰も教えてくれなかった。
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母より先に、赤ちゃんがやって来た。
祖母が世話をしていた。姉たちは夢中で「Kくん、Kくん」と呼んで可愛がる。
よく分からない。本当に弟なのだろうか。
先生が産休に入った時は、お腹がふくらんでから休んで、
一度クラスに顔を出して、赤ちゃんを見せてくれた。
そういうものじゃないのか。
まるでコウノトリか、キャベツ畑から来たみたいだ。
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母が帰ってきた。
まるで知らない人みたいだった。
母の部屋は祖母のものになっていた。
母は和室でKくんと寝ていたけれど、ほとんど世話をせず、ただ寝ていた。
祖母に怒鳴られても、泣くだけだった。
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休日。姉たちは祖母と買い物に出かけた。
待つのが退屈だから、自分だけ家に残った。
Kくんはずっと泣いていた。
くすぐると少し泣き止んだ。匂うしオムツかな?
袋に描かれた説明を見ながら、見よう見まねで替えてみた。
我ながら、うまくできた。
祖母が帰ってきて、「ひとりで替えたの? えらいね」と言った。
ミルクの作り方も教わり、すぐ覚えた。
「これでもう大丈夫ね」と、また褒められた。
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夕方、珍しく父がいた。
「ドライブに行こう」と言って、母とKくんを車に乗せた。
母方の親戚の家の前で車が止まる。
父は後部座席を振り返り、さらりと言った。
「お母さんたちのことは、お前がなんとかしなさい」




