気付けば悪役令嬢になっていた私~中途半端な破滅は許せませんわ! 全員叩き直し教育いたしますので覚悟なさい!
「あぁ、君は美しい。最高だよ、エラフィナ」
「ありいがとうございます。殿下も……その……ステキですわ」
「ん?」
「殿下……」
急に頭に流れ込んできた情報……それに困惑して一瞬止まってしまったせいで違和感を感じた顔だけは至高の王子様。
体を預けると満足げに抱きしめてきたから一応セーフ。
変なところ触らないでよ、エロ王子!
「私が贈ったアクセサリーもつけてくれているな。とてもよく似合っている」
「ありがとうございます」
まずいことになりました。
これは間違いなく乙女ゲーム「破滅の花」の世界で、私は王子を寝取る悪役令嬢エラフィナ・ハザードリス。
このまま色々と致してしまったら私たちは悪魔に魅入られ、聖女の力に目覚めた王子の本来の婚約者であるメルテナ・ランドローズ様に私の家族もろとも浄化されて異界送り……。
異界でデーモンロードに喰われて咀嚼されながら死ぬというそれなんて地獄? な未来が待っています。
そんなの嫌です。
それだったらいっそのこと……。
って、あれ……?
「殿下……」
「……」
夜会についた私は王子と腕を組まされて入場した。
そこで話しかけてきたのは悲しそうな顔をした公爵令嬢メルテナ様。
それはそうですよね。
自分の婚約者が自分のことを迎えにも来ない。
一人寂しくやってきたら、彼が愛人と腕を組んで楽しそうにしている。
私だったら胸ぐらひっつかんでわからせますが、この方はそういうことはされません。
というか、お上品なご令嬢はそんなことはしないでしょう。
だからつけあがるのです。目の前のバカのように。
私が思うに、私が尊敬する淑女な方々は各々の方法でしっかりとお相手を押さえつけています。
その上で自由にさせる部分は好きにさせています。
そういったことがこの方はできていないという点で、正直に言ってイライラします。
そもそも国王陛下が定めた正式な婚約者なのだから、愛人との逢瀬なんて発見次第、両親や陛下や王妃様に告げ口すればいいのです。
それが効果なければ次の手を考える必要がありますが……。
この方はそういったことを一切せず、自らが卑屈になっていくと言う方向で悲劇のヒロインしています。
結局殿下は婚約者を無視したまま夜会を楽しみ、私たちはともに会場を去りました。
少し酔った殿下が甘えてくるのが鬱陶しかったですが、それだけに飽き足らず、もっとバカなことを言い出しました。
「やはりメルテナなんていう地味な女との婚約は破棄して、お前を迎えることにしたよ、エラフィナ」
「まぁ………………ん……」
崖から突き落とされたような気分ですが、なんとか顔だけは作ってやりすごそうとしたのだけど、キスされました。おぇぇぇぇぇ。
そのまま押し倒してきそうなおサルさんをなんとか宥めて帰宅しました。
「殿下に頂いたアクセサリーをよこしなさい」
「はい……」
私のパパとママも最悪です。
殿下は夜会があるごとにドレスや宝石をくださるのですが、あの方は湯水のようにお金を使います。
前回なにをくださったかすら覚えておりませんので、それをいいことに両親は自分たちのものにしたり売り払ったりしています。
庇護下にある私には抗うことはできません……。
まぁ、以前の私は有効活用としか思っていませんでしたが。
「うまく殿下に取り入ってくれよ。そうして僕を近衛騎士に推薦するんだ。いいな?」
この兄も最低です。
自らの力でそれを勝ち取る力がないなら諦めればいいのに、私の肩を揉みながら囁いてきます。
美しい兄妹愛を発揮していた頃の私は応援していましたが。
事件が起きたら間違いなく対応できずに断罪されると言うのに、なぜ近衛騎士団など目指すのか、私には理解できません。
まぁ、頭の中がお花畑なのでしょうね。
夜になって一人になり、私は頭に流れ込んできた情報をもとに対応を考えます。
このまま行けば破滅なのだから、対策はしなければなりません。
とりあえず……。
「なにをしていらっしゃるのですか?」
帳簿を見ていたら執事長がやってきました。
突然自分の仕事場に主家の令嬢が来たら、普通はもっと丁寧に接するべきじゃないでしょうか?
まぁ、視線が彷徨っている様子を見るに、状況は理解できていないようですわね。
「不正の根拠でも見つけようかと思ったのですが、そんな必要はありませんでしたね」
「不正などと……そんなことはしておりません」
いけしゃあしゃあとよく言えますわね。
どうせ私のことなどバカな令嬢としか思っていないのでしょうけど……。
「へぇ」
「なにか?」
「これとこれとこれとこれ……というか、ほぼすべての数字が嘘ですわね」
「なっ? そんなことは!」
「ないとでもいうのでしょうか? 仮に各部署からの報告書が正しいと仮定すると、ほぼ全て費用を水増ししていますよね。王家へ支払う税金を誤魔化すとともに、自分たちの懐にいれているのでしょう。それは両親もそうですし、あなたもそうですね」
「そんなことはありません! その書類をお返しください!」
「バインド!」
「ぎゃぁ!?」
バレたら殴りかかってくるとか、貴族への態度がなっていませんわね。
魔法で拘束しました。
「なにごとだ!?」
「バインド!」
「ぐあぁ!?」
「エラフィナちゃん!?」
「バインド!」
「きゃぁ!?」
面倒なのでパパとママも拘束。
「バインド」
「ほげぇぇぇぇぇぇ?」
気持ちよさそうな表情で寝ていた兄も拘束。
「エラフィナ! なにを!?」
「急に目覚めてしまったのです。遊戯者なんていう称号なのですが、何かご存じでしょうか?」
「なんだそれは!? 知らぬ! 知らぬぞ!?」
「なら、結構です。"ホール"!」
「「「「うわぁぁぁぁぁぁ」」」」
とりあえず不思議なポケットのような袋に4人とも落としておきました。
この世界では"称号"というものが力を持っています。
"称号"が人間の力を決め、将来を導くのです。
国王陛下であれば"国王"、王妃様であれば"王妃"、王子様は"王子"とか"王太子"です。
これは地位がそのまま称号になっていますね。
他にも"勇者"とか"聖女"とか"竜騎士"なんかがあります。
これは自ら望んで手に入れるようなものではなく、何がしかの行動であるとか周囲の評価、神の加護などによって得られるものです。
"加護"を得ると、力を得ます。
魔法だったり、決断力のようなふわっとしたものもあります。
私の場合は遊戯者の効果によって"この世界に関する情報"やいくつかの魔法を得ました。
とりあえずこれを使って今の状況を変えるしか私には道がないのは間違いないです。
これはチャンスかもしれませんわね。
一瞬の幸福の後の絶望という道しかなかった。
それが変わり、全員を叩き直すことができそうです。
覚悟してくださいね。
苛立たしい婚約者さん。
私が性根を叩き直して差し上げますわ。
クズな王子様。
私が性根を叩き直して差し上げますわ。
甘えた家族たち。
私が性根を叩き直して差し上げますわ。折れても問題ないですし。
ということで次に行ってみましょう。
「エラフィナ……ハードリス様?」
「ごきげんよう。メルテナ・ランドローズ様」
翌日、私は婚約者様を訪れました。
訪問の理由を気にしながらも会っていただいたことは感謝します。
私だったら『この泥棒猫!』って水でもかけてお帰り願いますから。
だから、協力してあげましょう。
状況的には『地味だから嫌』なんていうお子ちゃまな王子のせいで可哀そうな状況に陥っているだけでもあります。
将来、"聖女"を得るということは神さまに認められる行動や思考を持っているということですから。
ということで……。
「すみませんが、ここに入ってくださいね」
「えっ?」
異空間に放り込んでいっちょあがり。
ランドローズ家の方々には申し訳ありませんが、王子と話しをしてくると告げて退室しました。
「何をしに来たんだメルテナ……って、エラフィナも?」
「バインド」
「ぎ……」
あぶないあぶない。
王城に響き渡る王子の悲鳴なんてものを残してしまってはまずいのです。
レオナルド王子の偽物を配置して……完璧です。
これも遊戯者のスキルで、『キャラ作成』というようです。
ランドローズ家でもメルテナ様の姿かたちの偽物を作って連れてきたので問題なかったのです。
ということで、私は自宅に帰りました。
さぁ、お勉強の時間ですわね。
「エラフィナ!? なにをしているんだ!?」
「エラフィナ! どういうことなんだ!?」
「エラフィナ! すぐに私たちを戻しなさい!」
「エラフィナ様……その、なぜ私も?」
「……」
「zzz」
順番に父、王子、母、メルテナ様、執事長、兄ですわね。
バカ兄はなぜまだ寝ているのでしょうか?
「エラフィナ……ダメだよそんなことをしては……あっ……zzz…………ぐぎゃ~~~~」
何の夢を見ているのか知りませんが、不快さマックスだったので踏みつけておきました。
どこをとは言いませんが。
「問答無用ですわ。このままでは全員破滅……メルテナ様は違いますが、私たちが死なないように強制的に協力していただきますわ」
「なっ!?」
「なにを言って……」
「"消音"……? 不思議な魔法ですわね」
「……………………………………」
うるさいので音を封じました。
これは便利ですね。
まだなにか言ってますが、聞こえません。
「お勉強の時間ですわ」
「……………………………………」
机と椅子が現れて全員座らされた。その前には厚さは違うけど、冊子が置かれている。
なんだこれは? みたいな顔をしてるけど、ぼーっとしてる時間はないわよ?
「全部読んでくださいね。そこに本来あなたたちがやらなければならなかったことが書いてあります」
「「「「「「!?!?!?!?」」」」」」
「最後にテストをします。不正解だとここから出られませんので」
「「「「「「!?!?!?!?」」」」」」
そう言い残し、"消音"を解除して退室しました。
私の自由な空間なので、出入りは自由です。私だけは。
そろそろ時間かなと思ってやってきたら、 こいつら舐めてやがりますね。
たぶん、読んだのはメルテナ様だけ。
彼女だけは殿下になにか呼びかけていますが……。
「殿下、どうか私の話を聞いてください」
「うぜぇ~~~」
うぜぇじゃねぇよ、クソ王子!?
「「「「「「うっ……!?!?!?!?」」」」」」
ほら、ステップが進んでしまった。
「"消音"。みなさん、ちゃんと頑張らないと死にますよ?」
「「「「「「!?!?!?!?」」」」」」
どうやら私のことを舐めていたようです。
驚いた顔でこちらを見ています。
「勉強をしない悪い子はお仕置きを受けるのが当然です。真面目にやらないとどんどん魔力が薄れていきます」
「「「「「「!?!?!?!?」」」」」」
そうなるうとどうなるか。
それくらいはわかるでしょう。
この世界の人々は呼吸によって空気中にある酸素を取り込むのと同時に魔力も取り込んでいます。
これがないと死にます。
この世界とか思うってことは、これは遊戯者によってもたらされた知識のようですね。
「なんでそんなことを!? みたいな顔をしていますが、このままではどうせ死んでしまうんです。今死ぬか、あとで死ぬか。選びなさい」
「「「「「「!?!?!?!?」」」」」」
いや~~~~みたいな顔。ちょっと面白くなってきました。
「じゃあ、勉強しなさい。そして課題をクリアしなさい。そうすれば生きて外に出れますし、あとでも死にません」
「「「「「「!!!!」」」」」」
勢いよく冊子を読み始めました。
それでいいのです。
素直に頑張りなさい。
そう言い残し、"消音"を解除して退室しました。
「メルテナ、ダンスを踊ろう。そうそう、うまいぞ」
「ありがとうございます、殿下。お気遣いいただいたおかげで踊りやすいです」
「「「「素晴らしい!!!」」」」
戻ってきたら、どうやら課題にチャレンジしているようです。
うんうん。良いですわね。
課題は王子とメルテナ様が仲を深め、家族や執事長は貴族らしくそれを応援するというもののようです。
順調です。
このまま行けば婚約破棄は起こらず、みんな無事でしょう。
しかし……。
グォォォオオオオォォォオオオオオ!!!!
「「「「「「「なぁっ!?」」」」」」」
なんでデーモンロードが?
「ぐぎゃ~~~~~~~」
あっ、お兄様が踏まれました。
「ヒール!!!」
もちろん、死んでほしいわけではないので回復魔法を唱えますが……。
デーモンロードの炎によるダメージと、私の回復魔法による効果がせめぎあって、ずっと苦しんでるみたいな状態になってしまいました。
これはまずいですわね……。
「みなさん伏せてください! "聖なる息吹"!」
「えっ?」
これは、聖女のスキル?
まさかこのタイミングで目覚めたというの?
グォォォオオオオォォォオオオオオ!????
そのスキルはデーモンロードに効果抜群みたいです。
苦しんでます。
「これでトドメです! "浄化"!」
ギャァァァアアァァァアアアアアアア!!!!!???
晴れ渡る異空間。
そこには光り輝く聖女となったメルテナ様が、王子を庇いながら立っていました。
美しい絵です。
なんとなく、足を踏んでそうな感じなのがなぜなのかわかりませんが。
こうして、私たちは悲劇を回避しました。
兄は力不足を理解したらしく、真面目に訓練に励んでいます。良いことですわね。無駄でしょうが。
両親や執事長は不正を自ら王家に申し出たことで罰は受けたものの減刑されました。今では真面目に領主しています。良いことですわ。二度と道は踏み外させません。
メルテナ様はその力を活かして、王子様と一緒に魔の森を巡っていたらしいです。良いことですが、元気になりすぎでは?
王子はメルテナ様にべったり……離れることは許してもらえないようです。神様方から何か言われたのでしょうか? それともメルテナ様から?
「私は……あなたを……幸せにします」
「私はあなたを支えます」
私は殿下とメルテナ様の結婚式に参列させていただきました。
どうして王子殿下は震えているのでしょうか?
嬉しさならいいですが、何かを怖がっているような?
まぁ、みんな生き残ったので良いことですわ。
きっとデーモンロードはギミックとしてメルテナ様を聖女にするためにイレギュラー登場したのでしょうね。
めでたしめでたしですわ。
「殿下。側室は必ず必要です。そこで私は、エラフィナ様をと思います」
「へっ……いや、それは……」
「はい、ですわよね?」
「はい」
結局巻き込まれたのですが……?