9話「爽やかな朝を迎えて」
翌朝は爽やかな快晴だった。
ただ、そんなことよりも、鬱陶しい人がいない空間で穏やかに目覚められることが嬉しかった。
これまでは朝から嫌な思いをさせられていた。というのも、朝から義妹に絡まれるのだ。あれをしろこれをしろと命令されるだけならまだしも、嫌みやら悪口やらを言い続けられる。そんな朝に爽やかさを感じられるはずもなくて。正直朝が来るのが憂鬱だった。
でも今朝はそれがない。
ただそれだけで目に映るものすべてが輝いているかのようだ。
もういつだったか忘れてしまったけれど、思えば、過去にはこんな爽やかな朝もあった気がする。
でもそれは遠い過去のもので。
ゆえにもう二度と手に入れることのできないものだと自然に思い込んでいた――けれども違った。
爽やかな朝、穏やかな朝、そういったものは二度と取り戻せないものではなかった。
身支度をして、宿の玄関の前へ出る。
するとふと地面に目がいった。
というのも、なぜか、足もとに一枚の紙が落ちていたのだ。
……誰かの落とし物だろうか?
一応それを手に取ってみる。するとその紙が宝くじであることが判明した。私はそういったものは購入したことがないのだけれど、話は聞いたことがある。何でも当たりくじを引けばかなりの額が貰えることもあるのだとか。
その時、たまたま通りかかった『占い師』と書かれた垂れ幕を肩から下げた女性がふふと笑い、そっと「それを拾っておくといいよ」と教えてくれた。
「じゃあね、お嬢ちゃん」
「え……」
女性はあっという間に去っていった。
な、何だったの……?
戸惑いだけが胸の内に残る。
いや、本当に、何? 拾っておくといい、って……どういうこと? どういう意味? 理解できない……まったくもって。一言だけ言われても何のヒントもないし。でも……悪い展開ではない、ということ?
もやもやしつつも、一応その宝くじを持っておくことにした。
偶然持ち主に出会ったなら返せばいいのだし。
「マリーさん!」
「あ、ディコラールさん」
ちょうどそのタイミングでディコラールがやって来た。
「「おはようございます」」
互いに朝の挨拶を口にする。
不思議なことにぴったりと揃った。
「宿大丈夫でした?」
「はい、とても快適でした」
「なら良かった」
「迷惑お掛けしました」
「いいんですよ! 僕がやりたいことをしているだけなんで!」
こうしてまた新しい朝が始まる。
「移動しましょうか」
彼はそっと声をかけてくれる。
「あ、はい。そうですね。どこ行きます?」
こうして向かい合っていることにはまだ少々違和感がある――気もする、けれど――でも、嫌な感じはしない。
「マリーさんの希望があればそこへ」
「ディコラールさんの行きたいところで」
ほぼ同時にそんなことを言っていた。
今日はなぜかやたらと被る……。
「ええっ。僕ですか」
「ありますか?」
「うーん……少し考えさせてください」
「待ちます待ちます」
これからのことについて考える。そういうことなのだから、べつに、どこへ行ったっていいのだ。どこで話すか、なんて、大して重要なことではない。国家機密でも話すのなら話は別だけれど。一般人の今後のことについて話す程度であれば場所なんて本来どうでもいいはずだ。
それでもあれこれ考えてしまうのは……きっと、話し合い以外の意味合いも多少含んでいるからなのだろう。
「まずは喫茶店とか、どうです? マリーさんが良ければですけど」
「いいですね!」
「では行きましょうか」
「決めてくださってありがとうございます、ディコラールさん」
「いやいや、そんな。大したことはしていませんよ。僕はただ何となくアイデアを挙げてみただけです」




